なぜ暴力的な指導はなくならないか 高校野球の若手監督らが真剣討論
高校野球の若手指導者を育成する日本高校野球連盟の「甲子園塾」が17年目を迎えた。今年も11~12月に2回に分けて、指導歴が原則10年未満の監督ら計54人が技術の指導法などを教わった。 【写真】若手指導者の質問に答える石橋の福田博之監督 甲子園塾はその名の通り、ひとりでも多くの指導者が甲子園に出場してほしいという思いが込められている。ただ、日本高野連がそれ以上に重きを置くのが、指導者による暴力の撲滅だ。2008年の第1回から班別討論や座学で解決策を探ってきた。 塾生たちに聞くと、今回の討論では班別で「何がきっかけで暴力が起こるのか」「どうすればなくすことができるか」という二つの視点から考えたという。 自身が学生時代に暴力を受けた指導者もいた。挙がった意見の一つは、「理想と現実のギャップ」だ。指導者が思い描く選手像と、実際の子どもたちの能力との違いを受け入れられない。広島県立高の男性監督(35)は「焦りで感情をコントロールできない人がいるのでは」。兵庫県立高の男性責任教師(31)は「言葉の引き出しを作ることが大切だ」。複数の指導者を置き、他者の目が届きやすくなることで防げるという声もあった。 記者は以前、複数回の体罰で処分を受けた指導者がいる学校を取材した。当時管理職だった男性によると、その指導者に部活を全て任せっきりだったという。他の教諭も声をかけづらい雰囲気があり、いわば「独裁状態だった」と振り返る。 今夏の甲子園に初出場し、甲子園塾の特別講師を務めた石橋(栃木)の福田博之監督(59)は「指導者は生徒のおかげで野球をやらせてもらっている。選手がミスをする要因の一つは、自分たちがうまくさせてあげられなかったから」と語る。 同じく特別講師でU18(18歳以下)日本代表の小倉全由監督(67)は、「生徒が人として間違ったことをしたら、厳しくしかる大人にならないといけない。先生たちは自信を持って指導してほしい」と話す一方で、「『あの痛みがあったから今がある』なんて言う人もいるが、どんなときも暴力は絶対ダメだ」と強調した。 暴力は犯罪である。甲子園塾に参加した未来ある指導者たちは、そんな当たり前の訴えを地元でも広めてほしい。(室田賢)
朝日新聞社