試合中に嘔吐、動悸…両親に告げた「終わるかも」 現役Jリーガーが苦悩、ストレスと向き合う今【インタビュー】
「メンタルのスポーツコーチング受けてみないか」の助言が転機に
治療法が分からぬまま、大学生活を送る日々。吐き気を催す症状により、「実力以外のことでサッカーを諦めないといけないのかと考えた時は、本当に絶望した」と、当時を振り返る。思い悩みながらも「サッカーは続けたい」という気持ちはぶらさず、大学4年目は春先からプロクラブの練習参加を重ねたが、オファーは一向に届かなかった。 キャプテンを務めた4年時、チームは関東大学リーグ2部降格という憂き目に遭う。プレー面では目立った成績を収められず、プロ入りは諦めかけた。両親には電話口で「ここでもう終わるかもしれない」と告げた。「実際、就職活動もしっかりやっていた」というなかで、10月に入って吉報が届いた。AC長野パルセイロからの契約オファーだった。 「強化担当の方に言われたのはプレーもそうだけど、キャプテンとしての振る舞いを評価してもらってくれたみたいです。自分がチームのためにしていた行動まで見てくれて、評価いただけたのはすごく嬉しくて。一時期、自分の人生がどうなるんだっていうふうに悩んだ時を思えば、諦めずにやってきて良かったなと。プロからレターが届いた時はすごく嬉しかったのをめちゃめちゃ覚えてます」 2020年のプロ入りとともに、症状改善へ光が差し込んだ。大学時代からの悩みをプロ入りのタイミングで代理人へ打ち明けると、あるアドバイスを受けた。「メンタルのスポーツコーチング受けてみないか」。どんなものなのかイメージが湧かなかったが、症状改善へつながればと思い「ぜひ話を聞いてもらいたい」と二つ返事で行動に移す。すると、坪川の視界が一気に開けた。 「自分の症状を理解してもらえる人があまりいなかったんですけど、メンタルコーチの方に話すと、笑いながら『普通だよ』『たくさんいる』って言われて。そういう選手を何人も改善させてきたから問題ありませんっていうことを言ってもらった時は、『あ、俺治るんだ』ってなりましたね。そこでしっかり理解してくれる人が現れたのは大きくて、そこからそのコーチングを受けながら、少しずつ、症状が緩和しました。治ったというよりは、コントロールできるようになった感覚ですね」 2023年シーズンからプレーする富山でも緊張感から突然、嗚咽することはある。ただ、「自分のメンタル面をうまくコントロールできてないことが原因」と分かった今、不安に襲われていたかつての思いは一掃された。 「今は正直、その緊張感とか プレッシャーがむしろワクワクするというか、緊張しないほうが恐ろしい。嗚咽が来るからやばいってわけではなくて、笑っていられるというか、今日はそういう日なんだみたいな感じで、それを受け入れられているんです。特になんかそれをネガティブに意識してない分、楽にプレーしています」 大学以上のプレッシャーに晒されるプロの舞台で27歳のJリーガーはストレスと向き合いながら、プロ5年目の挑戦を続ける。 [プロフィール] 坪川潤之(つぼかわ・ひろゆき)/1997年5月15日生まれ、北海道出身。矢板中央高校―東洋大学―AC長野パルセイロ―カターレ富山。2020年に東洋大から長野入り。同年6月の富山戦でJリーグデビューを飾る。22年シーズン後に契約満了となり長野を退団。翌年から富山へ完全移籍し、在籍2シーズン目を迎えている。
FOOTBALL ZONE編集部・橋本 啓 / Akira Hashimoto