「テレワーク可能なのに、あえて出社」 この判断は、経営者の怠慢なのか?
テレワーク可能な環境なのに、あえて出社させる会社は「経営者の怠慢」か?
テレワーク経験者のテレワーク継続希望割合は非常に高く、今や求人広告においても「フルリモート勤務可」が差別化要因として売り文句になる時代となった。従業員側としても、一度テレワークの便利さを体験してしまうと、いくら実施までの猶予期間を設けられたところで、「再度出社せよ」との業務命令にはなかなか従いたくないというのが本音だろう。 しかし冒頭で述べたとおり、米国テック大手企業を皮切りに「原則出社」体制への回帰の勢いはとどまることがなさそうだ。実際、KPMGインターナショナルが世界約1300人の企業経営者に実施した調査によると、3年以内に「従業員がオフィス勤務に完全復帰する」と答えた経営者が8割強に達しているという。 原則出社方針に回帰しつつあるのは、米国大手テック企業にとどまらない。例えばコロナ渦中ではテレワークを取り入れたゲーム大手の任天堂も2024年3月に「原則出社の方針」を明確にした。 同社はメディア取材に対し、「出社することがチームワークの質を高め、社員同士の強みを掛け合わせることが独創的なアイデアにつながる。また社員の成長のためにも、顔を合わせて密度の高いコミュニケーションをとることが効果的」との考えを示していた。 ホンダの原則出社方針表明はさらに早く、2022年5月より全社に対して原則出社方針を伝達している。コロナ禍中ではテレワーク主体だったが、本社部門や研究所などで段階的に原則出社とするよう運用を切り替えてきた。同社では創業者の本田宗一郎氏の時代から受け継がれてきた、「現場、現実、現物」の「三現主義」という企業理念があり、対面でのコミュニケーションを重視した働き方で、社員にホンダらしさを発揮してもらい、イノベーションの創出を促すことが狙いだという。 ここまで紹介した通り、ビジネス遂行の上では「出社し、メンバーと顔を突き合わせ、リアルタイムで密なコミュニケーションをとりながら仕事する」という形態でしか得られないメリットが着実に存在する。結果として、若手社員の成長促進や、クリエイティビティ向上、偶発的なアイデアの創出などが期待できる面もあるし、それによってテレワークを継続したままの競合企業より優位に立てる可能性さえあるかもしれない。 実際、2024年9月に日本経済新聞が米国S&P500採用銘柄のうち、時価総額上位100社を対象に出社頻度を集計したところ、過半数の企業が「週3日以上の出社勤務」を求めていることが判明。直近数か月の間に出社義務の頻度を引き上げた企業も多く、時価総額上位100社中で出社義務がないのはわずか10社だけだったという。 経営者の立場で考えてみれば、これまで数年来のテレワーク勤務に慣れた従業員に対して「原則出社」を言い渡すなど、反発が明らかであるだけに、気が滅入る役割であるのは間違いない。モチベーション低下程度で済めばまだよい方で、最悪の場合、既存従業員が辞めてしまったり、採用応募者が激減したりするリスクさえある。 逆に言えば、テレワークのメリットが十分浸透した現時点において、従業員の反発リスクや求職者の忌避リスクをも厭(いと)わず、他社に先んじて「原則出社」を公言できる会社ということは、いわば「顕著に儲(もう)かっている」「着実に成長している」「圧倒的なブランド力がある」など、従業員に対して企業側が強気に出られるだけの強力な差別化ポイントを保持している会社と言えるかもしれない。