「テレワーク可能なのに、あえて出社」 この判断は、経営者の怠慢なのか?
テレワークのデメリット
一方で、テレワークには課題も少なくない。これらの問題こそ、一部大手企業がこぞって「原則出社」に切り替えている要因でもある。 1. コミュニケーション不足 テレワークの環境下では、従業員間のコミュニケーションが取りづらい場面がしばしば発生する。特にクリエイティブなプロジェクトや新たな技術開発に関わる場面では、偶発的な会話や対面での日常的なコミュニケーションが創造性の原動力となることも多い。チーム間の連携が疎かになると、ミスコミュニケーションや作業効率の低下が発生するリスクもある。 厚生労働省「テレワークの労務管理等に関する実態調査(速報版)」によると、48.4%の企業がテレワークにおける課題として「従業員同士の間でコミュニケーションが取りづらい」ことを挙げている。 2. 孤立感と人材育成面のボトルネック 特に若手社員や新入社員にとって、オフィスでの同僚や上司との交流や何気ない会話が成長の一助となることもある。しかし、テレワーク環境ではこうした交流の機会が限られるため、特にOJTの場面で、業務進行に合わせて上司や先輩が直接教えたり、問題が発生した際にその場で助言したりすることが難しくなりやすい。 結果的に、若手や新人が「何を質問してよいか分からない」といった状況が発生し、教育に要する期間も対面指導に比べて時間を要してしまうケースがある。 コロナ禍中の2020年に経団連が実施した「人材育成に関するアンケート調査結果」によると、自社の人材育成施策が環境変化に「対応できていない部分がある」と回答した割合は実に9割弱(88.8%)に上った。 スマホゲーム開発などを手がけるエイチームは2020年度、新入社員にもテレワーク勤務を徹底していた。仕事は回ったものの、業務以外で先輩社員と関係を築く機会が乏しく、先輩の仕事ぶりを見ながら学んだり、社会人としての所作を身につけたりすることに課題があったという。同社では翌年度から、新入社員は緊急事態宣言中を除いて原則出社に変更。この変更について人事担当者は「会社の雰囲気を肌で感じてもらうとともに、先輩社員とのつながりを大事にしてもらうため」と説明している。 またテレワーク環境下では、新人に限らず、社員が孤立感を感じるケースが報告されている。「マイナビライフキャリア実態調査2021年版」によると、仕事や職場において「孤独感や孤立感を感じていた」と回答した割合が、テレワーク経験者で約2割と、未経験者の割合を上回っていたのだ。 3. 業務進捗管理や、組織カルチャー維持の難しさ 管理職にとって、テレワーク環境では従業員の業務進捗やパフォーマンスを把握しにくくなる点が大きなネックとなる。勤怠状況を管理するツールがあったとしても、そこに表示される労働時間は単なるデータに過ぎない。 対面で相手の様子をうかがったり、モチベーションを測ったりできず、直接的なフィードバックや進捗確認が困難な場合、チーム全体の関係性が希薄になり、組織としての一体感や連携が弱まってしまうリスクもある。 インターネット広告やメディア事業を展開するサイバーエージェント社は、2020年4月の緊急事態宣言から1カ月半の間は全社リモートワークを実施したが、6月から通常出社体制に戻し、以降は「週3日出社、週2日テレワーク」の勤務形態を推奨している。 同社社長の藤田晋氏はテレワークのメリットとして「オンライン会議の利便性、移動コスト削減、オフィス賃料見直し、通勤ストレス軽減」などを挙げながらも、デメリットとして「当社の強みである一体感、チームワークが損なわれ、極端な成果主義、個人主義に振らざるを得なくなる。これは当社の根本的なカルチャーと相性が悪く、強みが失われかねない」と述べていた。