AIを悪用してまで知りたい?謎めいた〝皇帝〟シューマッハー氏の現在
【ベテラン記者コラム】 人工知能(AI)が悪用された。ドイツのタブロイド誌『Die Aktuelle』は昨年4月、自動車のF1シリーズで通算91勝、歴代最多タイ7度の王座獲得を遂げたミヒャエル・シューマッハー氏(ドイツ)と事故後「初のインタビュー」との見出しで記事を掲載したが、AIで生成したコメントが含まれていた。強い批判を受け、編集長が解雇される事態に発展。シューマッハー家は今年5月、タブロイド誌との訴訟に勝訴したことを明らかにした。 2013年12月、休暇で訪れていたフランス南部のメリベルでスキー中に転倒し、頭部を岩にぶつける重傷を負ったシューマッハー氏と事故後初めてのインタビューが〝実現〟したとする記事は大きな議論を巻き起こした。事故以来、同氏は公の場には一切姿を見せておらず、現在の容体に関する情報もほぼ公開されていない。プライバシーを厳重に守ってきた家族にとっては、決して許せない内容だった。 世界に衝撃を与えた事故は、高級リゾート地で起きた。シューマッハー氏は当時14歳だった息子・ミックとスキーでゲレンデ外を滑走中に転倒し崖から転落。ヘルメットを着用していたが頭部を岩に強打した。ヘルメットがなければ即死というほどの衝撃だった。 愛息の目の前で起きた惨劇。事故直後は意識があり、数分後に救急隊員によってヘリコプターで近隣のムーチェにある病院に運ばれたが、重傷と判明した。グルノーブル大学中央病院に転送された到着時には意識がなかった。CTスキャンで頭部右側に深刻な損傷があり、ただちに脳内の出血と損傷を抑える手術が施された。 91年にジョーダンでF1デビューを果たしたシューマッハー氏は同年途中に移籍したベネトンで94、95年に年間王者に輝いた。96年にフェラーリに移籍すると、2000~04年に史上初の5連覇を達成し、〝皇帝〟の異名を取った。06年に1度引退したが07~09年の引退期間中には、二輪ロードレース世界選手権の最高峰クラスで、〝二輪のF1〟ともいわれるモトGPのバイクをテスト走行。王者クラスの選手に迫るタイムを出したが数度の転倒事故と骨折を経験し、「どうせ走るならF1を」と10年にメルセデスで現役復帰した。プライベートでは無類のスポーツ&冒険好きとして有名だった。 その後、ミックは21年にハースからF1に参戦。相次ぐクラッシュでマシンにダメージを与えたことで評価を下げ、シートを維持できず。昨季からかつて父が在籍したメルセデスの控えドライバーを務めている。常に比較されてきた偉大な父の現状について語ることはない。著名人とはいえ守られるべきプライバシーはある。