「飼い主がずっと元気という保証はないから」愛猫家・川上麻衣子が語る、ペットへの責任と向き合い方
「ペットは生きる活力になる」だからこそ、誰もが動物と一緒に暮らせる環境を作るべき
――ペットの長寿化が進み、猫・犬が20年近く生きるようになりました。そのため高齢の方がペットを飼うことを問題視する風潮もあります。川上さんはどう思いますか。 川上麻衣子:これはすごく大きな問題です。ある猫の譲渡会では60歳以上の方への譲渡は受けつけないというところもあります。60歳だと看取るときは80歳。そのため、もう飼い主として認められませんと。それはそれで悲しいことだと思います。 たとえ飼い主が20代であっても、明日事故で死んでしまうこともあるかもしれません。そういうこともあるので、例えば家族や友達が、自分が何かあったときに猫を育ててくれるという約束事を持っていれば問題はないと思います。 私達が協力しているボランティア団体では年齢に関係なく、話し合いで譲渡を決めています。やはり、高齢の方ほどペットは生きる活力にもなりますから、動物と一緒に暮らす機会を大事にした方が良い。一人暮らしの男性や高齢者の方は、譲渡を断られたショックが尾を引いてしまう。そんなケースも見てきました。その辺りも考えなきゃいけないんじゃないかなと思いますね。 ――ペットを看取るまで責任を持つべきだ、という考えを持つ人も少なくありません。 川上麻衣子: 本人はもちろん看取りたい。だからこそ難しいですよね。やっぱり、最初に信託できる場所を探しておくシステムを作らなければいけないと思います。誰もがいつ病気になるか分からないですから、個人の責任や気力だけではどうにもならないことも多いですよね。20年間、絶対病気にならないという保証はありません。そのためにも、飼う前に自分が何かあったときに託せる環境を作る必要があると思いますね。
◆獣医師 石井万寿美氏の「専門家の目線」
川上さんのお話で特に印象に残ったのは、「野良猫の繁殖をなるべく減らそうという活動をしていると、猫好きの人よりも猫嫌いの人の方が協力してくれる」という体験談です。猫好きな人はどうしても猫の視点でものを考えてしまいがちですが、猫嫌いな人はとにかく野良猫を減らしたいわけですから。目からうろこが落ちました。 皆さんに意識してほしいのは、やはりペットはロボットではないということ。一緒に暮らすのであれば、ペットの医療と高齢化の問題を認識したうえで迎え入れてほしいですね。 人間でいうところの心臓外科・眼科・皮膚科・整形外科など専門性に特化した動物病院も増え、CTやMRIの普及によって以前では見つけられなかった病気も発見できるようになった一方、人間のような保険制度はないためペットの医療費は高くなりがちです。また、飼い主の意識や生活環境の向上のおかげでペットの寿命が延びた反面、高齢化したペットの介護をどうするかといった新しい問題もでてきています。飼い主の健康状況や経済状況次第で、ペットの寿命が変わってしまうこともあるでしょう。 高齢者がペットを飼うことで認知症予防などにつながるという記事もよく目にしますが、その効用だけに注目して一緒に暮らし始めるのはいかがなものかと思っています。ペットは飼い主がいなければ、水を入れることも、食べ物を買いに行くこともできません。飼い主が歳を重ねるほど、世話を続けるのが難しくなることもあるでしょうが、飼育放棄などはもってのほかです。飼い主に何かあった場合、残されたペットをどうするのか。例えば高齢者に保護猫を譲渡したら若い世代の人が定期的に様子を見に行くなど、飼い主とペットが安心して生きられるような仕組みが必要だと思います。 ペットのライフスタイルも変化しており、医療や食べ物などもそれぞれのステージにあわせた最適なものが提供できるよう、科学的に正しい情報をアップデートしていくことも必要です。高齢化したペットには、どうしても介護や病気の不安が伴ってしまいますが、そういう子たちも安心して生きられる時代になればいいですよね。 ----- 川上麻衣子 1966年、スウェーデン・ストックホルム生まれ。女優。1980年、NHKドラマ人間模様「絆」でデビューを果たし、「3年B組金八先生」第2シリーズでヒロインを好演。1996年、映画「でべそ」で、第6回日本映画プロフェッショナル大賞主演女優賞を受賞。現在は俳優業のかたわら、スウェーデン暮らしのデザインを中心としたセレクトショップや自身がデザインしたガラスを販売する店舗を経営し、保護猫活動に協力する等を行う一般社団法人「ねこと今日」の代表理事としても活動。 石井万寿美 大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は栄養療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。 文:冴島友貴 (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました)