なぜ弁護士は「黙秘」をすすめるのか? “冤罪”描くドラマ『アンチヒーロー』現実の事件との共通点
弁護士が暴言よりも「嫌がる」取り調べ
――髙野弁護士は弁護士会で行われる研修の講師などもされているそうですが、その際にどんな指導をするのでしょうか。 髙野弁護士:まずは被疑者に黙秘してもらうよう言います。それに付随し、黙秘を被疑者たちに頑張ってもらう以上、弁護士は頻繁に警察署へ面会に行くよう言っています。本人が警察にいろいろ言われるうちに、大丈夫かという不安が少しずつ溜まってきて、弁護士を信じられなくなるからです。そうした不安が3日、1週間と溜まってしまうと、それで耐えられなくなる人はたくさんいますから。頻繁に会いに行き、小さい疑問の時点で解消していくことは、黙秘を維持するために必須です。 ――警察や検察は被疑者にどんなことを言って弁護士を疑わせたり、不安を持たせたりするのでしょうか。 髙野弁護士:典型的なのは、「お前の弁護士はまだ若いからわかっていないんじゃないか」とか。私も1、2年目のときはよく言われました。また、黙秘していると不利になることもあるといったネットの情報を見せること。おそらくどんな場面でも黙秘が良いわけではないと書いてあるのだと思いますが、都合の良いところだけ切り取って見せるんですね。 他に典型的なのは、家族の話を持ち出すこと。これは『アンチヒーロー』で検察官だったころの明墨も使った手ですね。「家族にこの間会ってきたよ。家族は黙秘なんかやめて、事件のことをちゃんと話して反省してくれと言っているよ」みたいなことを、家族はそんなこと言っていないのに言う人もいるんですよ。 ――事実でもないことを言うのは酷いですね。 髙野弁護士:そうしたことを私たち弁護士が把握したときには、当然抗議します。検察官のやり方としてよくあるのは「黙秘するのは自由だから良いよ。ただ、黙秘を本当にあなた自身がしたくてしているのか、弁護士に言われてしているだけなのか。弁護士に言われているだけだとしたら、弁護士は最終的に責任を取ってくれない。あなた自身が本当はどっちがいいのか考えてみて」と揺さぶってくることです。それまでに被疑者本人に「黙秘がベストの選択なんだ」と心の底から納得してもらえるよう助言しておかなければなりません。 ――取り調べでは、ドラマでよく見るような大声で怒鳴るとか机を叩くとかはあまりないのですか。 髙野弁護士:怒鳴ったり机を叩いたりは数は少ないと思います。そもそも、これらの方法は正直、あまり有効ではないんですね。被疑者のパーソナリティーにもよりますが、なんで怒鳴られなきゃいけないんだと反発する人は多いですから。本当に自分はやっていないと思っている人ほど、取り調べに対する反発が黙秘を継続するためのエネルギーになっていくということもあります。 私自身が1番警戒するのは、「心底あなたのことを考えて言っているんだよ」という空気を出してくる警察官・検察官ですかね。そういうときの方が反発もしにくく、疑問を持ち始めてしまい、黙秘が破られる危険がありますから。 ――本当にやっていないなら、黙秘するより、やっていないと言えば良いと思う人もいます。 髙野弁護士:そこが難しいところで。たとえば、痴漢を疑われたとき、「やっていない」と言うと、「なんでやっていないと言えるの?」という話になるわけですよね。「だったら、このとき、どこにいたのか」と言われ、いろいろ聞かれていくうちに、どこかに間違いが出てくると「嘘をついた」と言われる。そうすると、最終的に証拠と矛盾してしまえば、「この人は嘘をついています。だからやっていないという主張も信用できません」となってしまうわけですよ。