杉咲花 メン・オブ・ザ・イヤー・ベストアクター賞 ──人間・杉咲花に通底する真摯と誠実と
テレビドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」や 映画『52ヘルツのクジラたち』など、 凄みを増した演技で高い評価を得た杉咲花。 なぜここまで誠実に、真摯に作品に向き合うのか。 関係者の証言とともに人間・杉咲花の核心に迫った。2025年1&2月号に掲載したインタビューのロングバージョンをお届けする。 【写真を見る】エルメス、ロロ・ピアーナなど、杉咲花が纏う最旬ファッションをチェック!
通底するのは真摯な姿勢
美しく咲き誇る大輪の花を愛でるとき、人々の視線は花弁に注がれがちだ。だが、その源は豊饒な土壌からしっかと栄養を吸い上げ、風雨にさらされても揺らがず支え続ける“根”の部分にある。さすれば、真に輝いているのは地中に隠れた部分ではないのか──? 2024年、我々はようやく俳優・杉咲花の根(root)に目を向ける時が来たのかもしれない。法の落とし穴にハマり、無戸籍となった主人公の生きざまを描いた昨年の『市子』を転機に、今年はあるヤングケアラーの歩みを通して社会に横たわる無理解・搾取・暴力に切り込む『52ヘルツのクジラたち』、亡き親友の無念を晴らそうと組織に立ち向かう警察職員に扮した『朽ちないサクラ』、地上波テレビドラマのゲームチェンジャーになった「アンメット ある脳外科医の日記」といった作品に出演。それぞれの役の人生を丸ごと背負わんとする演者としての姿勢とさらに凄みを増した演技はもとより、脚本制作から宣伝会議に至るまで参加する無尽蔵のバイタリティが各メディアを通して報じられた。 笑い声が響くリラックスした環境下でのフォトシューティングを終え、取材会場に現れた杉咲。インタビューに際しては、事前に自身の思考をまとめたタブレットを持参した。このスタイルも、杉咲ならでは。学び続け、研鑽を怠らない下学上達を地で行く人物だが、それでいて「いつもの取材より緊張しています」とはにかむギャップが微笑ましい。そんな杉咲に、単刀直入に質問をぶつけた。「なぜ、そこまで貫くのか」 「経験や心の琴線を頼りにお芝居をするなかで、何かが腑に落ちていない感覚がずっと続いていました。私は器用なタイプではなく、求められた演出に応えられない場面も多くて、いわゆる“感情のスイッチ”と呼ばれるものが自分にはないように思えていたんです。ですがさまざまな役との出会いを通して、自分ひとりのイメージだけでは踏み込み得ない領域があるということを知りました。だから、リサーチをするんだって。演じる人物は、この世界のどこかに存在しているかもしれない誰かであるという意識が強まっていきました。そういった意味で、映画「市子」との出会いは、俳優キャリアにおいても大きな分岐点になった作品だと感じています。他者へ意識を向け、たったひとつの複雑な心を見つめようとすることに、よりフォーカスをしぼって仕事をしたいと感じるきっかけになりましたし、本番に向かう心情の温度変化において、テクニカルな面への渇望とさよならをしました」