杉咲花 メン・オブ・ザ・イヤー・ベストアクター賞 ──人間・杉咲花に通底する真摯と誠実と
素顔の杉咲花
「アンメット」の出演を杉咲にオファーした張本人である米田孝プロデューサーは、彼女の“誠実さ”について「実践できる人って、そういないと思います。自分一人ではできないことで、周囲を巻き込んでいく説得力も必要なので。それをやり遂げるのが、すごいところです。本当に、なかなかできないことです」と太鼓判を押す。 「『アンメット』では、この杉咲花の圧倒的な説得力が、作品を動かす強烈な原動力でした。彼女の誰よりも作品に真っすぐに取り組むところ、本質を見抜く視点や感性の鋭さ、世間や人を見つめる眼差しの優しさ、意志の強さ──リスペクトするところだらけです。役作りという言葉はあまりしっくりこなくて、川内ミヤビという人がそこにいる、という感覚。ここに辿り着くために必要な作業は当たり前のように行なっていく人です。それでいて他人の声にもきちんと耳を澄ませながら、全員をまとめて皆を一つにしていく求心力も素晴らしいと思います」 ここで念を押したいのは、杉咲花の根幹はずっとそこに在るということ。自ら撮影した写真にテキストを添える杉咲の連載企画「蜜の音」をはじめ、彼女と10年来の仕事仲間である「装苑」編集部の松丸千枝は「お話ししていくと、繊細なだけではなく、身の内に余りあるほどの光と熱を宿している方なんだなということがわかりました。かわいいと形容したくなる魅力がある花さんですが、私はかっこいい人だと感じています」と当時を述懐する。 「連載初期の頃は、花さんが編集部に出向いてデザイナーを含めた打ち合わせをしたり、時にパントーンのカラーチップを見て直接色指定をされたり、また、ドラマ撮影の休憩時間を狙って私が電話をかけ、撮影再開の寸前までページについて花さんとお話ししていたこともありました。それでも面倒そうな様子などは一切見せず、いけるところまでいこう!という感じが有り難かったですし、楽しい思い出です。また、ワクワクするようなアイデア出しも現実的な修正提案も、新たな発見があり腑に落ちる形で伝えてくださる点を、とても尊敬しています。創作の仕事の磁場を作り出すことをしながら、関わる人達の気持ちを慮った温かいやりとりをしてくださる方です」 本稿の執筆と並行して、日刊スポーツ映画大賞や報知映画賞といった各映画賞のノミネートが発表され、杉咲はいずれにもノミネートを果たした。この流れは、年をまたいでも続いてゆくことだろう。俳優・杉咲花が勇気を持って踏み出した新たなフェーズを、多くの人々が称賛している──。しかし本人の目に、驕りはない。その眼差しはひたすらに、他者に向かっている。米田や松丸が「自分の言葉や行動を他者がどう捉えるか、転じて登場人物の台詞が、あるいは物語そのものが受け手にどう受け止められるか、誰かを傷つける結果にならないか、ということに常に気を配っている人」「自分自身がどう思われているかということではなく、あくまでも仕事の結果に対して……たとえば『作品のメッセージや表現に誰かが傷ついていないか』『見た方には一体この場面やセリフがどう響いたのか』、などというところに視線が向いているのではないか」と語るように。 どうしようもなく不器用で、どこまでも誠実で、決して他者を諦めない表現者・杉咲花。そんな彼女のことを、4人の証言者はそれぞれ次のようにたとえた。「愛すべき人です。そしてとても色っぽい人」(ミヤタ)、「希望です」(松岡)、「強い強い光」(米田)、「一等星」(松丸)。彼女の“根”を知る人々が各々、輝きを纏った言葉を選択したこと。この偶然にして奇跡的な一致こそ、動かしがたい事実であり、杉咲花の幹そのものだろう。最後に「自分にとって杉咲花とは?」と問いかけると、悩みに悩みながら「未熟者」と答えた。 「いまの仕事を続けていると、評価されることに中毒になってしまう瞬間があって怖くなります。子どものころは舞い上がりやすくて、言われたことを真正面から受け止めて調子に乗ってしまい、たくさん失敗もしてきました。いまはその反省を生かしている感じです(笑)。なるべく俳優としても人としても見返りを求めないでいたいし、できることなら自分で自分を満たせるような、自分が価値を感じたものをちゃんと信じていられる人間でありたいです」