「ホワイトカラー・エグゼンプション」の本当の怖さとは? / 木暮太一のやさしいニュース解説
労働条件を悪くする可能性も
しかし今回の制度は、気をつけなければ新たに労働条件を悪くする可能性を孕んでいます。 『資本論』を書いたカール・マルクスが、150年も前に、既にその危険性を指摘していました。 ───「新たな危険性? マルクス? 何それ?」 今回話題になっている「ホワイトカラー・エグゼンプション」は、要するに「労働時間ではなく、成果で評価しますよ」ということです。この制度では、労働者は、与えられた業務が終わるまで仕事をしなければいけません。そのため、労働者に長時間労働を強いる制度と批判されているのでしょう。 しかし、さらに怖いことがあります。それは、 「成果が上がったかどうかは企業が恣意的に決めることができる(可能性として)」 という点です。 マルクスは、その点を指摘していました。労働時間でなく、労働の成果で給料支払うということは、成果が出なければ給料を払わなくていいということになります。 単に「残業代を払わなくてよくなったから、たくさん働かせよう」では終わらず、労働者が生産した成果物も「質が悪い。基準未達。これでは50%の仕事をしたにすぎない。だから給料も50%しか払えない」などといって、給料自体を下げることができてしまうのです。 また、会社がノルマの基準を上げたら、今までと同じ仕事量をこなしていても「未達成」になってしまいます。 今後、人件費を抑制しようとする動きは、今後もどんどん強くなっていきます。今は、一部の職種に限った議論をしていますが、今後すべての正社員に適用するように検討されるでしょう。 この流れは必然ですし、企業が生き残っていくために、そしてその企業が労働者に働く場を提供するためには、「労働時間」ではなく「成果」を基準にして給料を払うこともやむを得ないと、個人的には感じています。 しかし、マルクスが指摘した点は、常に念頭に置かなければいけません。 つまり、企業が恣意的に「成果物の質」「ノルマの量」を変えことができないようにしなければいけないのです。そして、成果が出ないからといって給料を恣意的に引き下げる事態にならないように、しなければいけません。 そうでなければ、田村厚労相がいう「ワーク・ライフ・バランスの改善」も達成できません。 今回の制度検討に対し、「残業代がもらえない。長時間労働になってしまう。でも、どうせ今と一緒」と考えてはいけません。 労働者が考えるべきことは、給料単価自体を引き下げられないにすることだと、マルクスの指摘から感じました。 --------------------------- 木暮 太一(こぐれ・たいち) 経済ジャーナリスト、(社)教育コミュニケーション協会代表理事。相手の目線に立った伝え方が、「実務経験者ならでは」と各方面から高評を博し、現在では、企業・大学などで多くの講演活動を行っている。『今までで一番やさしい経済の教科書』、『カイジ「命より重い!」お金の話』など著書36冊、累計80万部。最新刊は『伝え方の教科書』。