日銀・植田総裁の方向性に「モヤモヤ感」があるのはなぜなのか?やるべきことはやっているはずなのに…
■ 長期国債買い入れ減額ピッチにどう納得感を得るか 日本銀行が、現在の円安を足元の金融政策運営の材料にしないと判断するのであれば、これまでの円安が、企業と家計への影響を併せて考えても長期的にまだ日本経済にプラスだと丁寧に説明すべきではないだろうか。 そうした風当たりは、潜在的には日本銀行に対してばかりではない。 円安は海外事業のウェイトが高い企業にとっては引き続きプラスに作用する。そうした企業の好決算をみても分かる。したがって、その恩恵を賃金上昇、あるいは国内で事業をする関係企業への支払単価の引き上げといったかたちで還流させなければ、これも世論の批判の的になりかねない。だからこそ、大企業を中心に先んじて大幅賃上げが行われたのだろう。それでも、マクロ的にみれば労働分配率は必ずしも上昇していない。 他方、企業の海外活動から生まれる収益の果実は、賃金だけでなく配当というかたちでも家計に還元される。上述のような長期金利を気にする金融政策運営の下にあって、預金金利は現在のインフレとの対比でなかなか十分に高くならないかもしれない。そうであれば、個人の金融資産の中で、例えば株式の投資信託のウェイトを増やせば、企業部門の円安のプラスの一部を、配当を通じて得ることができる。 資産運用立国とよく言われるが、家計が自らの金融資産の構成をそのようなかたちで見直すことは、預金金利がなかなか上がらないのだとしたら、現在の円安のメリットを家計が享受する上でも効果が期待できる。ただ、そうした家計の金融ポートフォリオのリバランスが外貨建て資産に向かえば、それはまた新しい円安圧力を生む。為替レートの水準を評価する際には、こうした点も考慮しなくてはいけない。 上述のように、これからの金融政策運営においては、「2%インフレ期待がアンカーされた状態でイールドカーブがどうなるか」「そこへの到達にどれくらい時間がかかるか」のイメージを、日本銀行と金融市場が共有していくことが重要になる。それができて初めて、日本銀行の長期国債買い入れ減額ピッチの納得感も形成される。 両者で円滑なコミュニケーションができれば、短期間で長期金利がジャンプすることも避けられるだろう。その結果、資金の運用・調達のいずれのサイドにおいても、イールドカーブの変化に伴う調整コストを対応可能な範囲に留めることができる。