『NO 選挙, NO LIFE』前田亜紀監督 選挙という豊かな人間ドラマをユニークな二重構造で描くドキュメンタリー【Director’s Interview Vol.371】
候補者との不思議な距離感
Q:畠山さんの候補者との関わり方がすごく面白い。世の中の基準で言うと少し変わった人もいますが、畠山さんはその人たちの変わった面を俗っぽく面白がるわけではなく、どの候補者にも寄り添います。 前田:あの距離感には私も驚きました。取材者は普通対象に対してある一定の距離を保つけど、畠山さんは介入する。例えばたった一人で演説している候補者の幟が風で倒れそうになると、カメラを置いて困っている候補者の手伝いをしてしまう(笑)。もし私がカメラマンと取材に行って、カメラマンがカメラを置いて候補者を手伝いだしたら激怒すると思うんです。 Q:前田さんは畠山さんと候補者との距離感を見せたいんだと、感じました。 前田:最初からそういう狙いでした。畠山さんをフィルターにして選挙を撮るということは、その関係性も含めて撮るということですから。畠山さんは、ライターなのに「書くのが苦手だ」といつも言うんです。そういう姿や候補者との距離感を見ていると、この人はライターというより応援団だなと思いました。民主主義全体の応援団。 Q:だとすれば、メディアにもっと情報を出した方が応援になる気がしますね。 前田:そうですね(笑)。でもXに投稿したり、YouTubeに出したり、本人なりにできることはやっているんです。だけどほとんどの人の目に触れない。だから私は、ライターは肩書きとして維持しつつ、テレビのコメンテーターとして話す機会が増えればいいんじゃないかって思うんです。 Q:確かに、選挙の全候補者を語れる人って他にいないですからね。 前田:だからメディア関係者の皆さんは、畠山さんに出演オファーを是非お願いします。
泡沫候補と畠山の共通点
Q:畠山さんは、「立候補している人たちと自分が似ていると思う」と語っています。特に「泡沫候補」と呼ばれメディアに取り上げられない候補者たちと自分を重ねているような気がします。 前田:長年の取材で選挙に出ること自体のハードルを身に染みて感じるようになっていったのだと思います。私なんかは当初心のどこかで「泡沫候補ですよね」みたいに、ちょっと色眼鏡で見るところがありました。でも一人一人の候補者と向き合うと本当に真面目だし、供託金として300万円も払い、すごい量の書類を作って立候補している。それを見ると「好きなことをやっている人はいいよね」というレベルではない。 選挙に出る人たちのほとんどは社会のためを思って犠牲を払って立候補するわけです。畠山さんも社会のためと思って、犠牲を払ってやっているところが重なるんでしょうね。 Q:確かにユニークな「泡沫候補」と呼ばれる人たちが、決して趣味で選挙を戦っているわけではないことが分かってきます。 前田:今の時代、「好きなことをやってます」みたいなノリって、どこまで共感を呼ぶんだろうと最近よく思います。テレビのあるドキュメンタリー番組を見ていても「あなたはそれでいいかもしれないけど」って思ってしまいます。だから私の畠山さんに対するスタンスは、「好きなことを追い求めるから素晴らしい」というよりは、社会のために色々なもの投げ打って、みんなに馬鹿にされてもやり続けている人、ということに対するリスペクトだと思います。
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