『NO 選挙, NO LIFE』前田亜紀監督 選挙という豊かな人間ドラマをユニークな二重構造で描くドキュメンタリー【Director’s Interview Vol.371】
撮った瞬間、ラストシーンに決めた
Q:音楽をダースレイダーさんに依頼したのはどんな理由ですか? 前田:「NONFIX」の時に音効さんに音付けを頼んだら、すごく格好いい音を付けてきてくれたんです。「フリーライターが孤独な戦いをしている」という解釈で格好いい音を付けてくれたのだろうと思いました。でも私はもっと畠山さんを知っている人に畠山さんっぽい曲を作ってほしいと思いました。それでダースさんに、微妙な畠山さんらしさを表現して欲しいとお願いしました。ダースさんは畠山さんのことをよく知っていて「師匠」と呼んでリスペクトしているんです。 Q:編集で特に苦労された所はどこでしたか? 前田:参院選の街宣のシーンです。色々な候補者たちの街宣でしかないんだけれども、そこから見える世界をどう構築していくかが難しかった。面白いけど特に意味のないシーンってありますよね。そういうシーンの置き所がすごく難しくて迷い始める。それで「やっぱりこのシーンは意味が付かないから捨てよう」となる。でも最後に「やっぱり面白いから入れちゃえ」って復活させたりしました。そういう構成上の試行錯誤がありましたね。 Q:ラストに中川さんという候補を持ってきた構成が、本当に秀逸だなと思いました。 前田:ありがとうございます。 Q:ネタばれになるため内容は書きませんが、最初からあの構成だったんですか? 前田:もう撮った時に、「これがオチだね」って。 Q:カメラの前で起きていることもすごいし、あのシーンをラストにしたことで色々な解釈が立ち上がるのが素晴らしいと思います。 前田:そう言って頂けると嬉しいです。その前のことを忘れちゃうぐらい全部持っていきますよね。 監督:前田亜紀 ドキュメンタリー監督、ディレクター、プロデューサー。1976年生まれ。大分県出身。2001年よりテレビ番組制作の仕事に携わる。フリーランスのディレクターとして、2012年より大島と組み、「ETV特集」(NHK-Eテレ)、「情熱大陸」(MBS)、「ザ・ノンフィクション」「NONFIX」(CX)など、テレビドキュメンタリーを多数制作。2016年、監督作品『カレーライスを一から作る』を公開、のちにポプラ社より書籍化。2019年度児童福祉文化賞推薦作品、中高生が選ぶ小平市ティーンズ大賞などを受賞。衆議院議員の小川淳也の17年の活動を追いかけた『なぜ君は総理大臣になれないのか』(20年)、小川とともに自民党の平井卓也と日本維新の会の町川順子の陣営も描いた『香川1区』(22年)、ダースレイダーとプチ鹿島のコンビが監督を務めた『劇場版 センキョナンデス』(23年2月)、その第二弾『シン・ちむどんどん』(23年8月)、大島新監督の『国葬の日』(23年)と、5本続けて政治や社会をテーマにした映画のプロデューサーを務めた(共同含む)。 取材・文:稲垣哲也 TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム) 『NO 選挙, NO LIFE』 11月18日(土)よりポレポレ東中野、TOHOシネマズ日本橋ほか全国順次公開 配給:ナカチカピクチャーズ (C)ネツゲン
稲垣哲也
【関連記事】
- 『国葬の日』大島新監督 日本人の「無関心」をホラー映画のように描き出す異色ドキュメンタリー【Director’s Interview Vol.352】
- 『シン・ちむどんどん』、むちゃくちゃ面白いぞ【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.34】
- 『香川1区』大島新監督 前作を凌ぐ娯楽大作で描いた日本の民主主義の実像【Director’s Interview Vol.171】
- 『なぜ君は総理大臣になれないのか』大島新監督 エンタメとして高いレベルに達した、稀有な政治家ドキュメンタリー【Director’s Interview Vol.63】
- 『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』信友直子監督 偶然発見した映像によって結晶した21年間の記録【Director’s Interview Vol.196】