ウクライナ問題 プーチンが沈黙しても解決せず 上智大・上野教授に聞く
主役不在の「革命」
暫定政権が抱える問題の一つは、次の指導者が見あたらないということだ。ヤヌコビッチ政権が崩壊し、政敵で元首相のティモシェンコは釈放された。しかし健康状態がすぐれず、ドイツ国内の病院に入院したという報道も出ている。また、ティモシェンコはヤヌコビッチ政権で首相を務めた経験もあり、彼女の政治的キャリアを評価しないウクライナ国民も多い。 暫定政権内のメンバーにも有力な人物がいない。2004年のオレンジ革命のときには、少なくともユーシェンコという主役がいた。しかし、今回は仕掛人が右派セクターという議会外の存在であることもあり、「革命」の主役が不在だ。大統領選が5月25日に行われるが、誰かが絶大な支持のもと当選するのは考えにくい。
見えてこない 暫定政権のビジョン
欧米としては、ウクライナが現状の国境を維持したままで国民国家形成を進めることを望んでいる。だが一方で、ロシアはウクライナの内情をよく知っているだけに、それが難しいと考えている。西ウクライナの民族主義者、右派セクターも、ウクライナの分裂は避けられないとの考えだろう。 暫定政権はロシア語の第2公用語としての地位を廃止しようとするなど、クリミアに対する対立姿勢を打ち出している。暫定政権側の行動と欧米の思惑の間にずれが生じている可能性も否定できない。暫定政権が右派セクターに引っ張られ続け、現在のような強硬姿勢を崩さないのであれば、クリミアの再統合のみならずEU接近の道のりも険しくなるだろう。暫定政権のビジョンが見えてこない。
分裂しても解決せず
ウクライナがクリミアを切り捨て、西ウクライナだけで国民国家を作り、EU接近を目指すというシナリオは、理屈としては分かりやすい。しかし、果たしてそれがうまくできるのか。ウクライナでは民族が混ざり合って暮らしている。ロシア系住民が多いというクリミアでも、住民の2割はウクライナ人だ。西ウクライナのリビウや、ザカルパチアといった地域にも、少数ではあるがロシア人が住んでいる。つまり、どこかで国境線を引き直したとしても、民族問題の全面的な解決にはならない。 また、国際社会がウクライナが分裂するという事態を受け入れるかも疑問だ。冷戦思考が存在するアメリカとしても、ロシアがクリミアを併合するという事態は避けたいはずだ。