ウクライナ問題 プーチンが沈黙しても解決せず 上智大・上野教授に聞く
クリミア問題の影響で、国際社会の議論はロシアに対する批難や制裁へと移り変わっている。だが、一連の動乱の背景にあるウクライナ国内の問題を抜きにして、事態の根本的な解決を図ることはできない。ウクライナ政変とは何だったのか。そして、ウクライナが目指すべき国家像とは。ロシア・旧ソ連圏の政治に詳しい上智大学・上野俊彦教授に話を聞いた。(河野嘉誠)
以前から存在するウクライナの政情不安
仮にプーチンが西側の圧力に負け、クリミアについて沈黙したとしても、ウクライナ問題の根本的な解決にはならない。問題の根源はウクライナ国内にあるからだ。 ウクライナはソ連崩壊後、多極共存・多文化共生の国家をつくろうと試行錯誤してきた。しかし、これまで安定したことは一度もない。過去の大統領選は、一度をのぞきすべて決選投票までもつれ込んでいる。これまでの大統領で再選を果たしたのもクチマだけだ。議会で過半数を制した政党も存在せず、「エリートの分裂」が指摘されてきた。 ウクライナの政情不安は以前から存在した。だが、今回の事態がこれまでと決定的に異なるのは、政権委譲が民主主義システムの「外」でおこなわれたという点だ。
実力行使で政権委譲
ヤヌコビッチは昨年末、EUとの連合協定を取りやめ、ロシアから財政支援と天然ガスの3割引を取り付けた。ウクライナ国民の期待をEU側へと向けさせたにも関わらず、一気にそれを取り下げてしまった。かならずしも国民の合意を得たとはいえない急速な政策転換が、ヤヌコビッチ政権の命取りになった。 だが、大統領には任期がある。与野党間で合意されていた前倒し選挙が実施されれば、おそらくヤヌコビッチは落選したはずだ。しかし、盛り上がりすぎた市民運動が暴動に近くなり、ヤヌコビッチ政権は任期途中にも限らず打倒されてしまった。ウクライナではいままで大統領選であれ議会選であれ選挙結果には従うという民主主義のルールが守られてきたが、それが今回破られてしまった。オレンジ革命と比較されることも多い今回の政変だが、そこが決定的に違う。