津軽の文明交差点、昭和の風情まとう油川温泉
北の外れで出会う銭湯芸術
ほとんど日が落ちたころに交差点に戻ると、油川温泉はさっきとは表情を一変させていた。 内側の黄色い明かりがガラス戸の「油川温泉」という文字をくっきりと浮かび上がらせ、交差点の歩行者用信号が変わるたびに、その全体が青く染まったり、赤く染まったりする。それは見たことのない光景で、まるで特殊効果を狙って仕組んだもののように津軽の宵闇を照らしていた。 玄関戸をひいて中に入ると、木製の古いげた箱があり、盃(さかずき)のような逆傾斜のついた珍しい大型番台におかみさんがいた。脱衣場も昭和の風情とローカル色がそのまま残され、味わい深い。壁の貼り紙によると、湯は25.2度の源泉を沸かしているようだ。 浴室は、これぞ銭湯アートと言いたくなるカラフルな空間だ。奥壁には海岸風景のタイル絵が大きく描かれ、湯船は2枚の扇を並べた形。男湯と女湯を仕切る壁には大きな岩が積み上げられ、その上から落ちてくる湯はちょうどよい湯加減に沸かされている。 出入り口の横に1人用のステンレス水風呂があり、ひんやりとした源泉が贅沢にじゃんじゃんあふれている。その横にある乾式サウナには新しいスノコが敷かれて、いい香り。あとでおかみさんに聞くと、ご主人が自分で作って据えたそうだ。 風情たっぷりの脱衣場と浴室、源泉かけ流しの水風呂、清潔なサウナ。いやーもう私としてはこれ以上ない直球ストライク銭湯だ。青森市街地から離れた街はずれ的な場所に、こんな味わい深い正統派の銭湯があるなんてねえ。しかも幸いなことに、すいている(お店にとっては幸いではないだろうけど)。もったいなくてなかなか上がれず、温冷交互浴を繰り返した。 上がると脱衣場にご主人がいた。 「青森の銭湯はどこも温泉で、市内には大きな駐車場や大きなサウナのある大きな銭湯がたくさんあって、みんなそっちへ行ってしまいます」 あまり知られていないことだが、青森県は人口10万人あたりの公衆浴場数が日本一多いといわれる。しかもそのほとんどが温泉だ。青森県民は公衆浴場に関しては日本一ぜいたくであるとも言えるだろう。銭湯好きにとってはうれしい状況だが、古い銭湯を維持していくことは楽ではないに違いない。