映画『ブルーピリオド』原作者・山口つばさ&主演・眞栄田郷敦インタビュー。「好き」に向かう苦楽とは
好きなことに向かう「苦しみ」を大切にした
―眞栄田さん、完成した作品を見られて、どんな感想を抱きましたか。 眞栄田:本当に、八虎と一緒に進んでいるような感覚になりました。 というのも前半、八虎が美術を始める前は、悪い言い方をするとテンポが悪い――カットを割らずに、ワンカットで見せてる部分が多いんですが、それって八虎の心情だなって思いました。だからこそ、美術を始めたあとのスピード感のあるフラッシュが、すごく効いているなって、全体を通して思いました。 見終わったあとの印象としては、長かったなとは思わないんですよね。大変な時間はとても長く、楽しい時間は早く感じるから、それもあって八虎と一緒の時間を進んでいるような感覚になりました。 ―映画のなかには、眞栄田さんが描かれた作品も登場しますね。美術について、もともと興味はあったのでしょうか? 眞栄田:いや、本当に苦手意識が強くて。まったくやったことがなかった。 高校は芸術系のクラスで、音楽をしているクラスメイトもいるけど、美術とか書道を極めている人たちもいて。授業中に鉛筆を削ったり、ずっと描いたりしている人を見ていたんですよ。すげえなと、絶対こんなん無理だ、と思っていたんですよね。 今回指導してくださった先生が素晴らしい人だったということも大きいです。でも今回描いてみて、ちょっとびっくりしました、自分でも。こんだけ描けるんだ、って。 ―美術に向かう姿勢について八虎に共感するところがあると言われていましたが、演技も芸術表現のひとつだと思います。「努力か、才能か」といったところについては、眞栄田さんはどういうふうに考えていますか。 眞栄田:努力と才能――そんなのは、中学生のときからずっと考えていますね。最近の思いでいうと、自分らしかったらいいんじゃないかと思っています。 才能はやっぱり強いと思います。才能がある・ないは絶対にあると思うし――それは綺麗事ではないと思うんです、僕は。だけど、努力で埋められる部分もあると思うし、そういう人たちの良さもあると思うから、どっちもいいから、どっちでもいいかな、みたいな! ―自分の好きを大事にしていく、ということでしょうか。 眞栄田:そうですね。自分らしさみたいな……。一方で、自分らしさをわかるためには、いろんな経験やチャレンジをすることが大事だと思いますけどね。 ―山口先生、「努力か才能か」といった部分はあまり意図したところではないということでしたが、そのテーマについてはどういうふうに感じていますか? 山口:芸術って、才能があって、もうこれしかなくて――みたいな人がやるようなイメージがあるから、そのアンチテーゼのような気持ちで描いているような気持ちはありました。八虎くんが努力の人だったら、八虎くんが努力しないと得られないものを最初から持ってる人がいたりとか、それはあってもいいのかな、という感じで描いていましたね。 眞栄田:僕はもともと、この映画が努力と才能がテーマになるとは思わなかったですね。 山口:あっ、そうなんですか? 眞栄田:もちろん、世田介がいるから、要素としてはもちろんありますが、それが全体の大きいテーマになるとは思わなかったな。 ー眞栄田さんが一番大きく感じたテーマっていうのは、どういうものでしたか? 眞栄田:そうだなあ。好きなことに向かう……良し悪し。いいことだけではないと思うから。むしろ、やっぱり苦しいことが多いから。 好きなことに向き合うってことは、その先にはすごくいいことがあるんだろうけど、その過程はほとんど苦しいことばかり、というのが現実な気がする。だから今回、その苦しさというものを、すごく大事にしたつもりです。
インタビュー・テキスト by 今川彩香 / 撮影 by 鈴木渉