〈食べログ3.5以下のうまい店〉名物は「羽釜ご飯」。麻布台で17年間愛され続ける、看板のない日本料理店の秘訣
「説明のいらない」潔い料理を信条にゲストを魅了
下枝氏の料理は、非常に潔い。余計な説明をせずともおいしいと感じてもらえることを信条にしているからだ。それはただシンプルというわけではなく、素材選びから徹底した知識とこだわりを持ち、見えない部分で丁寧に手を掛けている。
お造りの鮪は、豊洲市場の仲卸「やま幸」から仕入れているもの。この日の赤身は、北海道の噴火湾の定置で獲れた157kg。中トロは、和歌山県の那智勝浦の延縄で獲れた173kgという立派な品。「やま幸」といえば、有名な寿司屋をはじめとする名店の仕入れ先として有名で、最近では麻布台ヒルズ マーケットに出店して話題になっているが、下枝氏は20年以上前からの長い付き合いだ。
素材に対し、自身が納得するおいしさを究極まで突き詰めることを徹底している。料理の主役となる食材はもちろんのこと、塩や醤油、鰹節に至るまで極上の素材を探し出すと、さらに仕立て直してから使う。お造りに添える醤油も自家製で、昆布、鰹節、日本酒を合わせ、じっくりと寝かせて土佐醤油に仕立てている。山葵もそのまま使用するのではなく、長野県産の2年物を一度枯らして戻すことで粘りと甘みが出るという。
おまかせコースは安定感ある定番のお料理を基軸に、季節を感じる料理も登場する。こちらは、出汁で炊いた水茄子が優しい口当たりの夏の一品。汁は控えめな味わいに仕上げ、茗荷、オクラ、生姜がアクセントに。使用する麺は、熊本県産の極細の手延べそうめんで、ゆで時間18秒とのこと。驚くほど細く繊細だが、しっかりとコシを感じる。水茄子の入荷次第だが7月末頃まで提供予定。
外川さん「料理は一見シンプルですが、「朔旦冬至」でしか味わえないと思うものばかり。下枝さんの料理を味わうと、味覚がリセットされ、研ぎ澄まされるような感覚になります。」
シグネチャーののどぐろの炭火焼きと羽釜ご飯
「朔旦冬至」を象徴するメニューのひとつがこちら。鳥取県境港の特定の漁場で獲れるのどぐろの中でも目の大きさや尾びれのかたちに至るまで、下枝氏が納得のいく形状のものだけを仕入れている。そのため提供は入荷次第。数日寝かせた後、醤油や味醂などに漬け込み、カウンター内にある炭の焼き台で焼き上げる。強火だが、魚の真下には炭を置かないことで、必要最低限の時間で絶妙な火入れ加減に。香ばしい香りが漂い食欲を刺激する。