「めぐみが北朝鮮にいる」疑惑が“確信”に変わるまで…メディアへの“実名”掲載を決めた父・滋さんの覚悟
実名を出すべきか? 家族の葛藤
新潟から戻った1月31日、朝日新聞社の長谷川さんが、めぐみの事件を特集した『アエラ』誌(2月10日号)の見本を持って、再びわが家を訪ねてこられました。長谷川さんは、めぐみや私たち夫婦の名前を実名で出したいと、おっしゃいました。雑誌は翌々日には出るとのことでした。 私はこのとき、長谷川さんから実名を出すと聞いて、気が変になるくらい考えました。まだ何も確証がないときに実名を出したら、どういうことになるんだろう。もしも、めぐみが北朝鮮で生きているとしたら、実名を出すことで、どんな影響があるか分かりません。証拠をなくしてしまうために、めぐみがバーンとやられてしまうかもしれない。そうなったら娘が可哀相だ。どうしよう、どうしよう。雑誌の発売を待ってください。もう少し考える時間をください……。 私は仕事で遠くに赴任している息子たちに電話をかけ、主人と私の考えが違うことを話して相談しました。息子たちは「お父さんの意見は正しいと思う。しかし、父親としての立場でものを言っていない。多少解決が遅くなっても、危険が高まることは避けるべきだ」との意見で、私同様、実名を出さないほうがいいというものでした。 主人は家族の中で一人、実名を出したほうがいいという考えでした。 20年ものあいだ、何一つ情報がなく、何の変化もなかったのです。たとえば匿名で、20年前に新潟でいなくなった「Y・Mさん」などと報道されたら、ことの信憑性は薄まってしまうだろう。めぐみの事件は一時の話題になるだけで、世間の記憶から消え去り、この先同じ状況がまた20年続くかもしれない。そうなったとき、自分たち親は、もうこの世にいないかもしれない。危険なことはあるかもしれないけれども、それならいっそ本名を公開して世論に訴えるほうがいい。 実名を出して「日本はこれだけの情報を持っている。手出しをすると大変なことになる」とのメッセージを北朝鮮に出すことで、むしろ安全が図られるとの意見です。すでに現代コリア研究所のホームページには「横田めぐみ」の名前も出ている。主人は、そう考えて、本名を出すことを了解すると決めました。 私は一睡もせずに考えあぐねましたが、主人の判断を信じて、それに従いました。