<調査報道の可能性と限界>第7回 米国ではNPOが次々誕生 調査報道の未来は?
米国の独立宣言を起草したトマス・ジェファーソン大統領は「新聞なき政府か、政府なき新聞をとるかと問われたら、ためらわず後者を選ぶ」との言葉を残しています。言論の自由の大切さを示した言葉として有名ですが、この中には「政府は人民のチェックを常時受けるもの」という考えがにじんでいます。近年、新聞やテレビなどの伝統的メディアが凋落するにつれ、調査報道部門を縮小する動きが世界的に進んでいます。一方、ジェファーソンの母国では今、調査報道を専門とするNPOが相次いで設立され、大きな影響力を持つようになってきました。調査報道は、これからどうなるのでしょうか。 【図表】第6回 調査報道の難しさ「情報源秘匿」と「1人旅」
NPOに有力紙ベテラン記者らが参加
「ProPublica」(プロパブリカ)。米国のメディア関係者でこの名前を知らぬ者は、まずいないでしょう。メディア関係者だけでなく、市民の認知度もかなり広がってきました。 プロパブリカはネット専門の調査報道機関です。2007年の誕生後、ニューヨーク・タイムズ紙など有力紙のベテラン調査報道記者が相次いで参加。50人弱の非営利組織でありながら、行政や政治の不正、腐敗、不作為を次々に暴いています。2010年にはニューオリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」の被災現場の理不尽さを徹底した取材で明るみに出し、ネット・メディアとして初めてピューリッツァー賞を受賞しました。翌年も同賞を受賞し、「調査報道と言えば、プロパブリカ」が定着しています。 米国ではこのほかにも、数多くの調査報道NPOが誕生しています。その理由はどこにあるのでしょうか。
「コストカット対象」に記者らが危機感
米国などでは近年、新聞産業の凋落が加速化しています。ネットの発達やリーマン・ショック不況などの影響もあり、大きく部数を落としたり、廃刊したりする新聞が後を絶ちません。そうした中、軽費節減策としてカットの対象となったのが、調査報道部門でした。 調査報道は手間も軽費もかかります。長期間、記者を投入しても、実を結ぶかどうか、なかなか見通しが立ちません。経営者が「わが社にそんな余裕はない」と判断するのもある意味、当然でしょう。 ウォーター・ゲート事件報道やベトナム戦争時の国防総省機密文書を暴くなどの伝統を持つ米国では、記者たちがこれに危機感を覚えました。都市や地域ごとに新聞が存在する米国では、「新聞の消えた町」も出始めましたが、そんな町では、政治や行政の腐敗が進むといったケースも散見されるようになったそうです。こうした事情を背景に、米国では次々に有力紙のベテラン記者が活動の舞台を調査報道NPOに移すようになりました。 日本の伝統的メディアは「発表報道」に偏重し、報道が権力を監視するという意識は(表向きの宣言などは別にして)欧米ほど強くはありません。社会を揺るがす調査報道もありますが、報道全体から言えばわずかです。そして日本でも伝統的メディアの凋落は続いています。経費節減は各社の至上命題で、調査報道はこれから先、さらに冷遇されてゆく可能性があります。