【#佐藤優のシン世界地図探索64】プーチン大統領の逆襲
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく! * * * ――6月18日、プーチン露大統領が北朝鮮を国賓として訪問し、翌日、金正恩総書記と首脳会談を行ないました。しかし、それよりも驚いたのは、プーチン大統領が朝鮮労働党機関紙「労働新聞」に寄稿した内容です。ロシア大統領府HPに掲載され、佐藤さんが翻訳されていました。 『ロシアと朝鮮民主主義人民共和国の友好善隣関係は、平等、相互尊重、信頼の原則に基づき、70年以上の歴史があり、輝かしい歴史的伝統に富んでいる。 両国民は、日本軍国主義に対する困難な共闘の記憶を大切にし、戦死した英雄を称える。1945年8月、ソ連軍兵士は朝鮮の愛国者たちと肩を並べて戦い、関東軍を打ち破り、朝鮮半島を植民地支配から解放し、朝鮮民族が自主的に発展する道を開いた。1946年、赤軍による朝鮮解放を記念して平壌の中心部に建てられた牡丹峰の丘の記念碑は、両国民の兄弟愛の象徴である』 特にここに、戦の歴史マニアとしてはぶっ飛びました。 『1945年8月、ソ連軍兵士は朝鮮の愛国者たちと肩を並べて戦い、関東軍を打ち破り、朝鮮半島を植民地支配から解放し、朝鮮民族が自主的に発展する道を開いた』 ソ連軍が北朝鮮軍とともにいまの北の基礎を築いたというのはマジですか? 佐藤 史実です。ここで特に重要なのは、金日成政権の後期から、北朝鮮がソ連軍の力を全て隠すようになったことです。だから、北のメディアでこういった史実に即した内容が出るのは異例です。北朝鮮の政権は、国の在り方として金日成、金正日たちの神話の上で成り立っていました。しかし、それを変えて史実に即していこうというのが非常に重要なのです。これまでは全て、自力解放といっていたわけですよね? ――そうなっていました。 佐藤 中国東北部で北朝鮮が抗日パルチザンをやって、「自力で大日本帝国主義を追い出した」となっていたのを、「ソ連軍と一緒にやっていたんだ」という話にしたのです。だから、金日成爺さんはソ連軍に籍があったし、金正日父さんは白頭山で生まれたのではなく、ソ連で生まれたということに近づいてくるわけですよ。これは大きな話ですよ。 ――自国の神話を否定して、生誕地も変える。 佐藤 そのベクトルです。金正恩政権は「神話に無理矢理合せろ」と言わずに現実的になっているんです。 ――これ、日本は歓迎すべきなんですか?