【#佐藤優のシン世界地図探索64】プーチン大統領の逆襲
佐藤 それは新しい安全保障体制を作ることです。二国間でお互いに軍事も含めて、その都度、協力しましょうという体制です。そして、そのネットワークをいくつでも作ります。なので、インドとロシア、ロシアとパキスタンが仲良くしてもいいということです。しかし、インドとパキスタンが喧嘩した時は、ロシアは中立の立場をとります。同盟条約ではありませんからね。 だから、いわば19世紀から20世紀初頭に見られた「協商」という関係です。「協力してビジネスをしていきます」という穏やかな協力関係にあるものの戦争への自動介入がなくて、その都度判断するということです。 ――それって、NATOを全て骨抜きにするというロシアの逆襲でありますね。 佐藤 そうです。そして、このロシアの逆襲にグローバルサウスは喜んでいます。スイスでのウクライナ平和サミットに関して、日本の新聞は「成功」と報じていますが、G7以外のサウジやインドは署名していません。だから、客観的に見れば失敗です。 ――すると、日本は完璧にロシアの敵国になるんですか? 佐藤 このままだと、そうなります。その流れを抑えるために、ロシアと実務レベルできちんとした対話をしないとなりません。 例えば、ビザなしでの北方領土墓参です。それから最近、羅臼(らうす)沖に白いシャチが2匹見つかりましたが、これを日露で共同研究するのもいいでしょう。または、モスクワで日本アニメ祭を開催するのも手です。政治と関係ないところからバンバン交流して、とにかく対話窓口を閉ざさないことが重要です。 ――ともにソ連軍兵士と肩を並べて、大日本帝国と戦った北朝鮮とはどうすれば? 佐藤 北朝鮮とは無条件で対話を早く進めることです。コミニュケーションできずに日本に対する悪いイメージだけが北朝鮮に積み重なった結果、武力紛争に至ることだけは避けなくてはなりません。 立場が違って争いになるのは仕方ないことです。しかし、誤解による争いは避けないとなりません。だから、信頼醸成装置が必要なわけです。 ――それも早くやらないと。逆襲と陰謀が始まっていますから。 佐藤 日本外交に重要なのは、東アジアの平和です。全世界の平和といっても、ヨーロッパと中東で戦争が起きていて、日本はそれを止めることはできません。自分の手が届かないところは関与すべきではないんです。ただし、東アジアの平和は、日本の主体的な努力で実現可能です。 ――どうやるんですか? 「●●廃絶!!」「××反対!!」では何も変わらないのでは。 佐藤 そのためには、外交における人権・民主主義・市場経済の価値の比重を落とすことです。その3つで突っ張っていくと戦争になります。 ――その通りです。 佐藤 戦争が起きたウクライナを見ると、まず人権に関しては18~60才の男子は出国禁止。民主主義に関しては大統領選挙が行なわれていません。そしてメディアは、テレビ局が1局になっています。経済でも市場メカニズムが機能せず、汚職が蔓延して、賄賂も当たり前の世界になっています。 全ては戦争が起きたからです。戦争が起こるとどんな国でも、人権、民主主義、市場経済が抑えられます。そう考えた場合、いかに平和が重要かということです。だから、いまの日本の人権、民主主義、市場経済のレベルを維持するためには、平和が絶対に必要なんです。すると、ミャンマーでロヒンギャ迫害が行なわれているから、ミャンマーに対して徹底的に制裁をかける必要は関係ありません。 ――北朝鮮との拉致問題も関係なくなるのですか?