新幹線駅チカJ1チーム誕生か? 苦節20年の歴史「ファジアーノ岡山」の足跡をたどる
■ J2で16年。ファジアーノ岡山、J1昇格最大のチャンス! 2024年の日本サッカーリーグ(Jリーグ)のうち、J2リーグの上位チームがJ1昇格を賭けて戦うプレーオフが開催されている。12月7日に行なわれる決勝戦ではファジアーノ岡山FCとベガルタ仙台が対戦、ここで勝利を収めれば、ファジアーノはチーム創設20年目にして初のJ1昇格を果たす。 【この記事に関する別の画像を見る】 ファジアーノが下部組織のJFL(当時)からJ2に昇格したのは2009年、そこから昇格も降格もなく、16年間も戦い続けてきた。J2に連続で在籍したチームとしては、今や水戸ホーリーホックに続いて2番目の古株チームとなっている。 これまでファジアーノは二度(2016年、2022年)にプレーオフに進出し、あと1勝に泣いた経験もある。2024年のプレーオフでは、2022年の進出時に大敗を喫したモンテディオ山形を相手に勝って決勝進出しており、順位で上回るベガルタ仙台(シーズン6位。ファジアーノは4位)相手に「勝つか、引き分け」で初のJ1昇格が決定する。長らく昇格を待ち続けた岡山県民の期待は頂点に達しており、決勝戦のチケットはもちろん完売。サポーターは各地のパブリックビューイングで、運命の一戦を見守るという。 もしファジアーノがJ1昇格を手にすれば、本拠地である「シティライトスタジアム」(岡山県総合グラウンド陸上競技場)は、山陽新幹線・岡山駅からほど近い(1.5km、徒歩20分かバス5分)。14時キックオフの試合なら16時30分に帰りの新幹線に乗り、夕方に大阪、夜には東京に到着できるという、各地から遠征で観戦する人々にとって絶好の環境だ。本拠地・日産スタジアムが新横浜駅に近い横浜F・マリノスと並んで、「新幹線駅チカJ1チーム」として、試合日の岡山駅はにぎわいを見せるだろう。 ■ ファジアーノ、実は「経営陣がスゴい!」 2024年シーズンのファジアーノは、シティライトスタジアムの収納可能人数「1万5479人」に近い大入りの試合が何度もあり、対戦相手によってはチケットが取れないことも。今やJ2のなかでは人気・実力ともにトップクラスだ。 そして、経営・営業の目線で見れば「ファジアーノの運営、なかなかの手練れだな!」と唸る仕掛けを、数々見受けられる。 □「これ何かのフェス?」サッカーを見なくても楽しい! ファジアーノの試合がここまで人気を誇る理由の1つ。試合日にはスタジアムの近くで、路上ライブやマジック・大道芸、さらに近所の高校の書道部のパフォーマンスなど……試合日のスタジアムのまわりは、お祭りかフェスのような状態だ。 また、国内トップレベルの実力を持つ岡山学芸館高校吹奏楽部によるアンセム(公式BGM)演奏を、たまに聴けるのもうれしい。勇壮で豪華なサウンドは、もはやプラス数千円くらいは払う価値がある。 □全100種類以上! 国内トップクラスのスタジアムグルメ そしてファジアーノと言えば、100種類以上の「ファジフーズ」。Jリーグ各チームが力を入れる「スタジアムグルメ」が、全クラブでもトップレベルに充実しているのだ。 ゲートに入場する前から、カレーや焼きそば、岡山のブランド牛「千屋牛」の串、大きくてジューシーな特製「ファジカラ」など……入場しない人々も行列に並んでいるが、収益は選手の強化費用にも充てられるといい、しっかりファジアーノに貢献している。 □あれ……スポンサー多くない? プロサッカーは人件費・強化費用・試合の開催費用でとにかく費用が嵩むこともあり、チームによってはLIXIL・メルカリ(鹿島アントラーズ)、ヤマハ(ジュビロ磐田)、サイバーエージェント(FC町田ゼルビア)など、錚々たる大企業がバックにつく場合も多い。しかしファジアーノは大きな後ろ盾のない地域密着のクラブであり、J1昇格の経験がないチームでは最多の8.6億円(売上のほぼ半分)にものぼる広告収入で、なんとか経営を成り立たせている。 そんなファジアーノが試合前などに流すスポンサー企業紹介は、とにかく長い。オフィシャルスポンサーだけでも「GROP」「トンボ学生服」「萩原工業」など約30社、クラブスポンサーは「宗家源吉兆庵」「サンラヴィアン」「岡山理科大学」など約150社。サポーターも紹介のたびに律儀に拍手を送っており、「我がチームはスポンサーに支えられている」という意識をしっかり持っているのだろう。 さらにダイヤモンドパートナー、プラチナパートナーなど、年間5万円から契約できる法人パートナーの掲示スペースも巨大だ。よく見ると、社名からして町工場や個人商店、地域の病院など……「Jリーグのスポンサーになって効果はあるの?」と聞きたくなる企業も多いが、とある整体院の方によると「この字幕に出ていたから」と、わざわざ遠くから来院する“ファジサポ”(ファジアーノのサポーター)もいるそうだ。 ファジアーノはチームの強化だけでなく、「楽しめるホームゲーム」「充実したグルメ」「きめ細かいスポンサー獲得」で岡山の地に根付き、サッカーファンやサポーターを増やしてきた。ただ、チーム創設時の状況は……。初のJ1昇格に向けてチャンスを掴んだ「ファジアーノ岡山FC」の歴史を振り返ってみよう。 ■ ファジアーノ快進撃の秘密は「地域・サポーター+選手・経営陣の団結」! 現在の「ファジアーノ岡山FC」の源流は、倉敷市で活動していた「川崎製鉄水島サッカー部」のOB組織「リバーフリーキッカーズ」(1975年結成)まで遡る。なお、川崎製鉄水島サッカー部の本体はのちに岡山を離れ、現在のヴィッセル神戸の源流となった。 2003年には将来的なJリーグへの加盟を目指して「ファジアーノ岡山FC」に改組。2006年に会社として法人化したが、ここからスポンサー獲得・入場者獲得に苦しめられることとなる。岡山県は星野仙一氏(元中日・阪神・楽天監督)などの出身地でもあり、毎年のようにプロ野球公式戦が開催されるなど「どちらかと言えば野球」「サッカーはあまり興味を持たれない」土地柄でもあったのだ。 会社のスタート当時は、ゴールドマン・サックス証券の執行役員から転身した木村正明社長を含めて社員は2名、選手報酬は0円。スポンサー獲得のために経営者の宴席に頻繁に顔を出し、朝まで飲み歩きながらスポンサーを探す日々が続いたという。 チームも、プロとしての「練習時間を朝から昼に」などの改革についていけず、社業を選んで退団する選手が続出したという。それでも2008年に地域リーグ(中国リーグ)からJFL、翌年にはJ2に昇格。プロサッカーチームが収益を得るための手段は「昇格」であり、最短での昇格がなければチーム解散もあり得るような状況であったという。 ファジアーノはJ2昇格後も、練習場の建設に28万人の署名が集まるなど、サッカーの楽しみを知り、熱心に応援を始めた岡山県民に支えられてきた。またサポーターも、試合前は観戦に来たサポーターがのぼりをたて、終了後は掃除をして帰り、普段の生活でも「差し入れはサンラヴィアンのケーキ詰め合わせ」「買い物ならハローズ」など、スポンサー企業ごと支援する動きも見られるようになった。 ファジアーノの快進撃は、チームや運営の奮闘だけでなく「サポーターや財界、行政までが一丸となった」からこそ実現したものだ。しかし「年間18引き分け」「連勝で首位に立ったのにすぐに連敗」など、勝ち切れない状態が長らく続き……ようやく手にしたJ1昇格の最大のチャンスを、岡山県民ならびにサポーターの方々は、かたずをのんで見守っている。 ■ ファジアーノだけじゃない! 今週は「中・四国のJリーグ」が熱い!! 今週末(2024年第1週)はファジアーノだけでなく、中・四国地方のJリーグチーム・サッカーチームが、それぞれ運命を賭した決戦に挑む。 12月7日15時からは、J3/JFL入れ替え戦で高知ユナイテッドSCが横浜Y.S.C.Cと対決。勝利すれば高知はJ3昇格となり、四国からは5チーム目、高知県からは初のJリーグチームが誕生する。なお高知ユナイテッドSCがJ3に昇格すれば、Jリーグクラブが存在しないのは三重県、滋賀県、福井県、和歌山県、島根県のみだ。 またJ1は、最終節(年間の最終試合)を残して3チームが優勝の可能性を残すという、まれに見る混戦模様となっている。うち、2位のサンフレッチェ広島F.Cは12月8日にガンバ大阪と対決、1位のヴィッセル神戸の結果次第(たったの「勝点差1」)で、森保一監督(現:日本代表監督)が指揮を執っていた2015年以来の優勝を果たす。 ほか中・四国は、J2には「レノファ山口」「徳島ヴォルティス」「愛媛FC」、来年から「FC今治」、J3には「ガイナーレ鳥取」「カマタマーレ讃岐」などのチームがあり、それぞれのリーグで健闘している。J1の「サンフレッチェ広島」も加えてこれだけのチームがあれば、サッカー観戦ついでに各地を観光する「サッカー・ツーリズム」(スポーツ・ツーリズム)を十二分に楽しめるだろう。 また「どっちも応援しない立場だけど、気楽にゲームを楽しみたい」「スタジアムの雰囲気だけ味わいたい」「グルメを楽しみたい」という人々も、応援するチームがなくとも、気軽に足を運ぶとよいだろう。 なお筆者も、故郷のJリーグチームがJ2に戻る気配がない(昔はファジアーノとの「瀬戸大橋ダービー」が入場者数1万人越えてたのに……)こともあり、J1/J2は心安らかに試合を見られるようになった。その横で岡山県倉敷市出身の妻がファジアーノのゲーフラを居間に飾って願掛けを行なっている。こういった応援の温度も、さまざまでよい。 そう考えると、サッカーだけでなくさまざまな楽しみ方ができて、かつ市街地やほかの観光地にもすぐ行ける「ファジアーノ岡山FC」の試合を、J1昇格に関わらず楽しんでほしいものだ。サッカーに限らず、スポーツ観戦はもっと楽しく、気軽に、自由な感じ方でいい。
トラベル Watch,宮武和多哉