大学の「学費値上げ論争」が空転する日本の大問題 これからの日本の国立大学が果たすべき役割は?
多くの国で大学は、「教育」だけでなく、「研究」で知識を生み出し、さらに知識を使って「ベンチャービジネスの育成」に貢献しています。 アメリカでは、スタンフォード大学があるシリコンバレーでITビジネスが発達し、ハーバード大学があるボストンでコンサルティング業が発達しました。大学が知識社会をリードする中心的存在になっています。 近年、東京大学はAI研究の松尾豊教授の研究室を中心にベンチャービジネスの育成に取り組んでおり、大学発ベンチャー企業の数で日本一です。2位京都大学、3位慶応義塾大学など有力大学がベンチャービジネス育成に注力しています(「トップ層の東大生が起業を選ぶようになった必然」参照)。
東大の藤井輝夫総長は、2022年の入学式で23分間の式辞のうち約15分、ベンチャービジネスについて語り、「東大関連ベンチャーの支援に向けた取り組みを積極的に進め、その数を700社にするという目標を掲げています」と明言しました。 停滞を続ける日本において、画期的なベンチャービジネスが期待されることは、言うまでもありません。ただ、国公立大学がファンドを立ち上げて直接ベンチャービジネスを創造することには、懸念もあります。
国公立大学は、主に運営費交付金など国からの資金で運営されています。国からの金というと、天から降ってくるような印象を持ってしまいますが、元をただせばわれわれ国民の税金です。 一方、ベンチャービジネスはリスクが高く、100社立ち上げても大成功するのは数社、大半は失敗に終わると言われます。失敗したら、誰かが損失を負担しなければなりません。 ■日本に合った大学とビジネスの関わり方とは? 国公立大学がファンドを作って自らベンチャービジネスに挑戦し、「成功したら、成果はわれわれのもの。失敗したら、国(=国民)が尻拭いしてください」というのは、リスク負担と成果配分という点で国民の理解を得にくいのではないでしょうか。