『虎に翼』三山凌輝演じる直明とほぼ同じ歳…父が語っていた「戦後」の若者たちのリアル
7年前に亡くなった父のことを思い出しました
5月27日から放送されたNHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』では、当時多くの人たちが直面したであろう「戦争と死」が描かれた。伊藤沙莉さん演じる主人公、寅子の兄・直道の戦死、夫・優三の戦病死、父・直言の病死……。しかし、絶望だけでは終わらなかった。1946年(昭和21年)11月3日に公布される日本国憲法の内容が書かれた新聞を読んだ寅子が悲しみから立ち上がる姿が描かれた。 【画像】三山凌輝が好演する寅ちゃんの弟・直明の姿 5月31日放送回では、家族を心配し、「僕は猪爪家の男として、この家の大黒柱にならないと」という弟・直明(三山凌輝)に、寅子は「だから私が稼ぎます」「男も女も平等なの。男だからって、あなたが全部背負わなくていい。そういう時代は終わったの!」とキッパリ言い切るシーンが話題になった。 「男女平等」というと、今も満たされない権利が多い女性の側の思いばかりが注目されがちになる。もちろん、そこもとても大事な部分だが、同時に男性も家長制度や“男だから”の苦しみや呪いを背負わされてきた。ドラマではその視点にもきちんと目を向け、女が稼ぎの担い手になってもいいし、男は家を支えなくてはいけない、泣き言は言ってはいけないといった呪縛を解き放ってくれた。まさに、日本国憲法を象徴するシーンでもあったのだ。 「激しい戦火や玉音放送を描かない朝ドラという声もありましたが、死だけではなく、多くの人が戦争によって捨てるしかなかった夢や希望があったことをきちんと描いている作品だと感じました。そして、7年前に亡くなった父のことを想い出しました。父は、昭和2年生まれで、ドラマで描かれている直明とほぼ同世代。まさに、『大黒柱として夢を諦めたひとり』と思ったからです」と話すのは、編集者でライターの安藤由美さんだ。 そんな安藤さんが、父親が話してくれた想い出から、『虎に翼』で感じたことを寄稿してくれた。
寅ちゃんの弟と同世代だった私の父
父は生前、私を含め家族に、よく戦争の話をしてくれました。子どもの頃、終戦の日には、当時の思いを忘れないためにと、具がほとんどない「すいとん」を母に作ってもらい、父が10代だった頃の、自らの戦時中体験の話をするのが定例でした。 ですが、当時子どもだった私は、父の死が間近にあった体験が怖くて、父の話を真面目に聞いていませんでした。今回『虎に翼』を見て、父の話を想い出し、あぁ、もっとちゃんと聞いて、父の戦中前後の体験や思いを記録しておけばよかったと後悔しています。なので、今回書かせていただくのは、父の話の中で、私の覚えていることをまとめたものなので、記憶が曖昧な部分もあることをお許しください。 7年前に90歳で亡くなった父は、昭和2年生まれで18歳の誕生日になる少し前に終戦を迎えました。父より1歳上の男性たちは徴兵され、また、終戦間際の時期には父よりも若い世代も少年兵などに志願する人たちも多くいた時代です。父は、戦前戦中に両親を亡くしていたこと、遺伝性の色覚異常(緑と赤の区別が曖昧)を持っていること、長男であったことなどから、少年兵に志願することはしませんでした。ですが、「終戦がもう少し遅れたら、自分も戦地に行っていたと思う」とよく話していました。 三山凌輝さんが演じる『虎に翼』の寅子の弟・直明は、岡山の進学校の寄宿舎にいたところ、空襲で校舎が焼けて卒業が繰り上がり、終戦後、東京に戻ってきます。1946年(昭和21年)11月3日の日本国憲法公布の時期に、「僕ももう20歳だよ」というセリフがありました。当時は数えで年齢を言うことが多かったと思うので、父と同じ歳か、ひとつ上だったのかなと想定できました。