ムルシエラゴを破った996 曲線美で魅了する993 伝説の起源にある930 ポルシェ911 ターボ 3台乗り比べ(1)
ムルシエラゴを破った996型ターボS
グレートブリテン島中部の、ブランティングソープ。かなり昔の話だが、そこにあるストレートコースで、AUTOCARは0-161-0km/hの加速・減速競争を企画した。 【写真】リアウイングを正当化する爆発的パワー ポルシェ911 ターボ 930/993/996 現行の992も (125枚) 1台は、ボディサイドに三日月形のエアインテークが開けられた、ポルシェ911 ターボS。その両脇には、値段が3倍もするカーボンボディのパガーニ・ゾンダと、2倍のシリンダーで突っ走るランボルギーニ・ムルシエラゴが居並んだ。 案の定、シルバーに塗られたゾンダは威厳を保った。161km/hまでの加速で、911 ターボSへ1.18秒の差を付けて逃げ切った。 しかし、パープルのムルシエラゴは餌食にされた。50km/h、100km/hと徐々に距離が開き、161km/hの時点ではかなりの差が付いていた。そこから一気にフルブレーキ。2000年代初頭のジャイアントキラーとして、強烈な印象をわれわれに刻んだ。 そんな雑誌の記事へ、子供だった筆者は心が奪われた。小さな911 ターボが披露した、ヒーロー伝説といえた。V12エンジンのスーパーカーより小柄で身近な存在が故に、写真から発せられるオーラはひときわだった。 まだ自転車くらいしか移動手段がなくても、近くのディーラーへ行けば、リアエンジンのクーペを眺めることは可能だった。スタッフへお願いすれば、対応の良い人なら、ドアを開いてメーターを眺めさせてくれた。 もっとも、996型の911 ターボSがイタリアン・スーパーカーを打ち負かすことは、それほど珍しい結果ではなかった。圧倒的なダッシュ力は、先代からの遺伝といえた。
速く、最も完成度に長けたロードカー
ランボルギーニ・カウンタック LP400や、フェラーリ365 GT4 BBと対峙した1974年以来、911は常に勝者側にあろうとしてきた。カレラRS 3.0のエンジンに、 KKK社製ターボをドッキングさせた930型で。 このオリジナルの911 ターボは、正真正銘のホモロゲーション仕様。スポーツカーレースでの勝利を求めて、最高速度300km/h以上の性能をレーシングカーへ与えるため生み出された。 930型は、大排気量・自然吸気エンジンのスーパーカーと、互角に戦える速さを備えただけではなかった。キャビンは人間工学的に配慮され、内装はレザーで仕立てられ、最新の電子技術も搭載されていた。 子供が座れる、+2のリアシートも備わった。その時代における、最も完成度に長けたロードカーの1台だったことは間違いない。 その誕生から半世紀。911は6世代の進化を果たしたが、ターボのレシピは変わらない。圧倒される加速力に釣り合うような高級感を漂わせ、現実的に扱いやすく、特有の操縦性で楽しませてくれる。 992型911 ターボSの0-100km/h加速は、2.5秒。穏やかに流せば、優しい風を頬に受けつつ、ボーズ社製のスピーカーから流れる音楽を楽しめる。必要なら、デュアルクラッチ・オートマティック経由で、81.4kg-mの極太トルクを繰り出せる。 生々しい運転体験では、どんなハイパワー・バッテリーEVを持ってきても敵わない。畏敬の念を抱くほど。鋭く吹け上がった直後、5500rpm辺りでタービンの悲鳴が高まる。幼い頃のターボ伝説のイメージが、自ずと重なる。