横尾忠則さんら芸術家の情熱、世界を魅了 新時代のアートは「驚きの経験」提供できるか 万博未来考 第4部(1)
■「0.1%の人でも理解してくれれば」
「来た人の0.1%でも僕らのやっていることを理解してくれればいい」。こう語るのは、中核パビリオン・テーマ館の一つ「いのちの遊び場 クラゲ館」でアートを担当する美術家、長坂真護(まご)さんだ。
「岡本さんを尊敬している」という長坂さんだが、太陽の塔のような、来場者の目を引き付け圧倒しようという強烈な自己主張はない。
しかし、作品にはしっかりメッセージが込められている。長坂さんがつくるのは「廃棄されたペットボトルを集めてクラゲの形にした作品」。クラゲは漢字で「海月」と書くが、作品には「真っ暗な海の中で光る月が平和を導く」イメージが込められているという。
廃材の使用には、SDGs(持続可能な開発目標)への思いや先進国と貧困国の格差への怒りがある。
長坂さんは、アフリカ・ガーナに先進国が不法投棄した携帯電話、パソコンといった電子廃棄物を張り付けた絵画などを制作してきた。
指摘するのは、1970年万博当時と異なり「インターネットなどで芸術家をリサーチできる環境になっている」こと。あらかじめ調べて「見たい」と思った人がパビリオンに足を運ぶ。見に来た人は価値観を共有できる素地があり、「精神の深い部分でつながれる」。交流サイト(SNS)での直接のやりとりも可能だ。
近年の万博でもアートの成功例はある。
日本のデジタル技術を使ったアート集団「チームラボ」もその一つ。2015年のミラノ万博の日本館で、稲穂の海に腰までつかって歩き回るかのような3次元の映像空間を提供し、人と自然の共生の大切さを訴えた。その映像空間は来場客に衝撃を与え、展示のメッセージ、方法など総合的な観点からミラノ万博で最も印象に残る展示に贈られる賞を受けた。
「知らなかったことを学んだり意識を変えられたりする驚きが万博の魅力。万博に登場するアートは、そうした経験を来場客に提供すべきだ」。大阪公立大の橋爪紳也特別教授は語る。
「何でもネットで調べられる時代」だけに、国内外にどれだけ深いメッセージを発することができるのか。ハードルは高いだろう。新時代のアートのありようが25年万博で問われることになる。