横尾忠則さんら芸術家の情熱、世界を魅了 新時代のアートは「驚きの経験」提供できるか 万博未来考 第4部(1)
大阪公立大の橋爪紳也特別教授は「体制に批判的だった前衛芸術家やクリエイターの多くは、国家事業である万博への協力に否定的だった」と指摘する。「しかし、万博会場では多くの前衛芸術家らが活躍した」
その一人だった横尾さんは「依頼が来て悩んだが、(反万博の)思想で僕の創造を殺すのは不正直だと思った」という。
70年万博の象徴ともいわれる「太陽の塔」。土偶をかたどったとの見方もある独特の造形を生んだ岡本太郎は、「技術や産業の進歩で人は幸せになる」という無邪気な万博の理念と対立する理念として、人間の根源に着目して生命を考えるべきだと訴えた。
橋爪さんは語る。
「彼らのアートには、強いメッセージ性があった」
■脳裏に刻まれた異端
「べらぼうなもの」
1970(昭和45)年大阪万博の象徴とされる「太陽の塔」を制作した岡本太郎の狙いはその言葉に集約される。無難なものでなく、最初は理解されずに批判されても、いつしか魅了されてしまう。異端芸術家の真骨頂といえる。
「万博のテーマは『人類の進歩と調和』。岡本さんはキラキラした未来だけでなく、人間という存在がどこから来たかを見せるのも大切だと考えた」。川崎市岡本太郎美術館の学芸員、片岡香さんは語る。
全長約70メートル。今も会場跡地の万博記念公園(大阪府吹田市)にそびえ、見る人を圧倒する。万博当時はテーマ館の大屋根を貫くように設置。内部に生命の進化の過程を表した高さ約41メートルのオブジェ「生命の樹」がつくられた。
地下の空間には「過去-根源の世界」を表現するため、各国から集めた土俗の仮面や神像を展示した。岡本は縄文人の創造性や独創性にもひかれており、太陽の塔は土偶をかたどったのではないか、との見方もある。
万博当時は「よく分からない」「不気味」といった否定的な声も上がった。だが、今では太陽の塔の独特の造形は、多くの日本人の脳裏に深く刻まれている。
約半世紀を経て来年4月、大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)で開幕する2025年大阪・関西万博には、賛否渦巻くような新しいアートは出現するのか。