医師が警告する「乳幼児期に言うことを聞かせすぎる」危険性
乳幼児期に親から愛情を注がれていたかどうかは、その後の人生にも大きな影響を及ぼします。親の愛情を感じられなかったことで心が安定せず、中には摂食障害に陥ったり、安易に性交渉を繰り返すようになるケースも珍しくないといいます。児童精神科医の佐々木正美さんが語ります。 【マンガ】「集中力が高い子ほど、乳幼児期に体験している「フロー状態」とは? ※本稿は、佐々木正美著『【新装版】抱きしめよう、わが子のぜんぶ: 思春期に向けて、いちばん大切なこと』(大和出版)から、一部抜粋・編集したものです。
「親への復讐」と口にする少女たち
思春期の、特に女の子たちは自分の容姿や体型に非常にこだわります。決して太っていない、むしろやせているのに「太っている」と思い込み、過剰なダイエットをして、そのうち食べ物を拒否するようになったりします。「拒食症」と呼ばれるものです。 一方で、不安やさみしさといったストレスを感じると、大量にものを食べて、吐いてしまうまで食べ続ける子もいます。「過食症」と呼ばれるもので、食べたあとに自己嫌悪に陥り、多くの場合、自己誘発性嘔吐という、自分でのどに指を突っ込んで食べたものを吐く行為をともないます。 拒食症、過食症をあわせて「摂食障害」といいます。摂食障害の本質は心理的な問題です。食と生命は一体のものですが、自分の存在への不安が大きくなると、屈折したかたちで病的な食習慣となってしまうのです。ですから、心理的な問題が解決されないと、障害は改善されません。 私は東京女子医科大学病院の小児科に非常勤で21年勤めていました。そこには摂食障害を抱えた10代の子どもが絶えずといっていいほど、外来を訪れたり、入院したりしていました。 圧倒的に女性が多いのですが、彼女たちが少し話せるようになったときにいう言葉は、「私のしている行為は、親への復讐だ」というものが意外に多く、驚きました。はっきりと文章に書いた少女もいました。親に心配をかけるのが目的だというのです。 拒食、過食、それにリストカットも含め、そうした行為の背景には、「もっと私のことを愛してほしい」「見守っていてほしい」という気持ちが強くあって、そうされなかったために、だれかを恨む、復讐する、攻撃するという感情が潜んでいるのです。繰り返し入院してくる何人もの少女たちを見ていて、そう確信しました。 彼女たちの恨みや憎しみのもとにあるのは、自分が望んだような愛情をくれなかったということです。 たとえば、幼いころ保育園に最後まで残されたとか、学校にあがると「勉強しなさい」とばかり言い続けられたとか、ほめることはせず、できないことばかり「ダメじゃない」と責め続けられたといったことです。