テレビはいつも「台本通りの展開」で「見えない力が働いている」のか? 実際に出演して分かったホントのところ
番組クラッシャー
先日私が出演したNHK Eテレの歴史番組『知恵泉』でもそうだった。番組進行役の高井正智アナは「一応台本はありますが、皆さんご自由に喋ってください。私とのやり取りだけでなく、(ゲストの)お三方で意見のやり取りや質問をしていただければなお良しです。私が場は回しますので。台本はあってないようなものです」と言った。大体これがテレビ番組の制作スタイルである。 進行役はキチンと全内容を把握したうえで、スタッフからカンペで「〇〇さんに振ってください」といった指示を受けながら、収録現場を円滑に進めていくのである。台本というお膳立てがあるからこそ、その他出演者は妙な制約がなく自由に喋ることができるのだ。 そして、もっと言うと、番組に出演するような人間は、ある程度その専門分野で名が通っているわけで、そうしたポジションを取るにはある程度のコミュニケーション能力があることが前提となる。 そのため、無言の忖度が働くことはあるのは否定しない。場が一つの論調に進むことはあるが、ここで180度異なる意見を出してしまうと、まさに「番組クラッシャー」のような状況になるため、自分の言いたいことを100%出すのではなく、60%の無難なことを言う場合はある。
ビジネスの世界と一緒
そう、出演者同士は「番組を作る仲間」であり、さらにケンカをすると制作会社にウザいヤツだと思われて今後呼ばれなくなることを危惧しているのである。そうした忖度はありつつも、「言論統制」をされることはないということ、そして「台本通りに言わないと干される」こともないことは記しておく。何しろ出演者は台本をキチンと読み込んでいないことが多いのだから。 これはビジネスマンとしての会議やら飲み会でも同じではないだろうか。「えっ? あなたそんなこと思っていたの? 論破してやる!」と心の中では思っていたとしても、実際にそのように場を荒らす人間は滅多にいないだろう。テレビも同じなのである。そう考えると、テレビの世界は特殊だと思われるかもしれないが、一般のビジネスマンの世界と同じなのだ。 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。 デイリー新潮編集部
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