国民感情的には「反日」「反中」が大勢を占める中で両国が急接近、日中友好は本当に深まるのか
(舛添 要一:国際政治学者) 12月25日、北京で日中外相会談が行われた。日本の外相の訪中は1年8カ月ぶりであるが、様々な面で進展があった。外相会談に先立って、岩屋外務大臣は李強首相とも会談した。この日中の接近の背景には何があるのか。そして、中国の外交政策は、今後どのように展開するのか。 【写真】にこやかに握手する岩屋外相(左)と中国の李強首相 ■ 外相会談の合意事項 まずは、来年の早い時期に、王毅外相が訪日することで合意した。 中国は、私が訪中した11月30日に短期ビザの免除措置を実行に移したが、今回、それに応える形で、日本もビザの緩和措置を発表した。富裕層向けに10年間有効な「観光数次ビザ」を新設する、団体観光での滞在可能日数を15日から30日に拡大する、3年間有効の観光ビザは取得後3カ月以内の入国を求める要件を撤廃する、65歳以上は在職証明書の提出を不要にするなどの内容である。 これは、日中ハイレベル人的・文化交流対話の中で明らかにされたが、両国とも、観光客の増加は、不振な経済を回復させる一助となる。 しかし、9月の深圳での日本人自動の殺害など、各地で頻発する殺傷事件のニュースは、日本人観光客の足を遠のかせている。そこで、日本側は、中国国内での日本人の安全確保を中国政府に要請するとともに、反スパイ法によって拘束されている日本人の即時解放も求めた。 両国の国民の相互イメージは悪化の一途を辿り、両国の国民の9割が相手に良くない印象を持っている。 日本産水産物の輸入再開については、9月に合意に達したが、早期に実行に移すことを日本は求めた。 安全保障分野については、東シナ海における中国軍の挑発が続いている。さらに、中国が、昨年7月、今年の6月に続いて、12月になってまた、日本のEEZ(排他的経済水域)内にブイを設置した事が明らかになったが、この点について岩屋外相は抗議した。
尖閣諸島の領有権を巡って、日中間の対立は続いており、また、南シナ海における中国軍の進出は周辺諸国との摩擦を引き起こしている。さらに、台湾問題も地域の安全保障上の懸案事項となっている。 今後とも対話を続け、関係改善に努めていくことが、両国関係のみならず、世界の安定に寄与することになる。 ■ なぜ日中接近が進展したか 今回の日中接近の背景には、来年1月のトランプ政権の誕生がある。トランプは、中国との競争に勝つことを最優先課題に置いており、大統領選挙中に中国からの輸入に対して10%の追加関税を課すと明言した。また、中国に60%の追加関税、全世界からの輸入に10~20%の関税を課すと言っている。 トランプのこの保護主義は、中国にとっても、日本にとってもマイナスであり、両国が共同戦線を張ることは意義がある。中国は、その点を重視して、今回の対日軟化策を講じたものと思われる。日本にとっても、中国との経済関係を強化することは、トランプ政権への牽制球となりうる。 トランプが公約通りに関税を強化すれば、中国の輸出にブレーキがかかることは必定である。中国は、不動産不況を引き金とする経済不振に悩んでおり、消費の低迷、地方財政の苦境などが顕在化している。それを外需の振興で補おうとしているだけに、トランプの関税政策は大きな痛手となる。 中国が世界に対してビザ免除措置を講じ始めたのは、インバウンドによる観光収入を増やすためである。 石破首相に対しては、靖国神社に行かないことを含め、反中派ではないとの認識であり、日中関係を好転させることが可能だと中国は考えている。したがって、外相会談の次は首脳会談への道を模索しようとしているのである。