キングの逮捕劇──カルロス・ゴーンと田中角栄の文化論
有価証券報告書に報酬額を約50億円少なく記載したとして、東京地検特捜部は日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン氏を金融商品取引法違反容疑で逮捕しました。「コストカッター」の異名を持ち、経営危機に陥っていた日産を立て直した敏腕経営者の逮捕は日本社会に衝撃を与えました。さらにルノーの筆頭株主であるフランス政府が、ルノーと日産の経営統合を求めていたとの報道もあり、その影響は国内だけにとどまらない可能性も出てきました。 「長年の『ゴーン統治』の負の側面」日産社長が緊急会見 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、「ある年齢以上の人は田中角栄元総理の逮捕を思い出したのではないか」といいます。カルロス・ゴーン氏と田中角栄元総理。2人のカリスマの逮捕にはどのような類似点、相違点があるのでしょうか。若山氏が独自の「文化力学」的な視点から論じます。
ジェット機から拘置所へ
夕闇に包まれた羽田空港にランディングした白い飛行機が滑るように動いている。 エンジン部分に「NISSAN」と読めるロゴの入ったジェット機だ。停止した機体に、スーツ姿の男たちが何人も乗り込む。しばらくして窓のスクリーンが下ろされる。インターネット動画(朝日新聞デジタル掲載)からは中で何があったか分からないが、仏ルノー、日産自動車、三菱自動車の会長を兼務していたカルロス・ゴーン氏が、身柄を拘束され、東京拘置所に運ばれたという。世界でも指折りのカリスマ経営者であった。 まるでドラマのような、衝撃の逮捕劇だ。 東京地検特捜部は、訓練された特殊部隊がハイジャック機に突入するかのように行動した。事前にマスコミの記事になることもなく、綿密な調査と周到な計画と勇気ある決断によると思われる鮮やかな逮捕である。 大阪地検特捜部の証拠改ざん事件、東京地検特捜部出身で小池都知事の側近だった国会議員の衆議院選挙での落選など、このところ続いた地検特捜部のイメージダウンを一挙に取り戻すかのようなクリーンヒットか、いや追い詰められた日産チームを救う逆転ホームランになるかもしれない。