静岡県藤枝市が仕掛ける「サッカー観戦 × 観光」、観戦客の周遊促す観光DX、その取り組みを現地で取材した
参画事業者の手応えと見えてきた課題とは
「ユニタビ」の取り組みは、参画事業者にも好評のようだ。「プロジェクトを聞いた時、面白そうだなと思った」と飲食店『魚時会館おさかな亭』を営む石上忠義氏。「藤枝MYFCは、藤枝の地域資源。事業者はそれを商売に生かしながら、地域として藤枝MYFCをサポートするような関係ができたらと前から思っていた」と明かす。 また、「ユニタビ」のメリットとして、事前に情報を提供できることを挙げる。特に、市外から観戦に訪れるアウェイチームのサポーターにとっては有益で、「地域としては、彼らの地域での滞留や新たな流れをつくり出すことができる」と話す。 全国で開催されるJリーグの試合では、観光の文脈で言うと、いわゆる「アウェイツーリズム」が注目されているが、「ユニタビ」では居住地と好きなクラブを登録することから、その人がその試合の日に立ち寄った場所がデータとしてわかるという。 藤枝MYFCは、2023年シーズンからJ3からJ2に昇格した。石上氏は「それは非常に大きいこと」と話す。スタジアムの来場者数が1試合600人ほどだったのが、一気に3000~4000人に増えた。「それだけの人が動くと、それだけ経済も動く」と期待は大きい。 ただ、課題もある。「ユニタビ」では、飲食店などでの空席情報も取得できるが、そこから予約に結びつけるまでには至っていない。店舗のデジタル対応が遅れていることから、オンライン予約の仕組みが整わず、まだ現金のみ扱う店舗も多いという。 また、山﨑氏は、試合後の突発的な混雑など現場で生じる問題へのデジタル対応に改善の余地があるとの見解を示す。 さらに、蒔田氏は「実証の段階で、事業者に少しでも効果を実感してもらわなければ、来年からの自走につながらない」と話し、事業者との「チームづくり」の重要性を指摘した。
模索が続く輸送手段の効率化
輸送手段の効率化もこのプロジェクトの取り組みの一つとして位置付けられている。藤枝市内の公共交通機関は脆弱なため、特にスタジアム周辺では試合終了後の渋滞など、交通問題が発生しているという。 その解決方法の一つとして、静鉄タクシーと連携し、ユニタビでマッチングできる相乗りタクシーの実証も行っている。藤枝駅からスタジアムまでは約6キロ、車で10分ほどの距離だ。 実証では、駅前の通常のタクシー乗り場とは別に相乗りタクシー乗り場を設定。基本は事前予約だが、認知が進んでいないために、シャトルバスに並んでいる人に声がけを行い、希望者を相乗りタクシーに誘導したという。 通常のタクシー料金は約2000円。相乗り4人で一人500円ほど。ただ、シャトルバスが無料であることから、快適性と有料とのバランスに難しさがあるようだ。 ナビタイムジャパンでは、実証を通じて周遊データを収集・分析したうえで、将来的には相乗りタクシーをはじめ、バス、シェアサイクルなどの代替モビリティの選択肢を「ユニタビ」で紹介することで、効率的な移動の支援を目指す考えだ。
持続可能な地域づくりに大切なのは継続性
山﨑氏は、「スポーツツーリズムの取り組みに大切なのは継続性」と強調する。スポーツ観戦は、毎試合見にいく人ばかりではない。「たとえば、年間数回しか行かない人にも『ユニタビ』を使ってもらうためには、プロジェクトを継続させていかなければいけない」と続けた。 その継続の先に「持続可能な地域経済の活性化」が見えてくる。 「藤枝が志太榛原地域(静岡県中西部)の観光のハブのような存在になれば」と石上氏。藤枝MYFCを媒体に、地域と藤枝MYFCサポーター、アウェイサポーターが関係人口となる世界の実現に期待をかけた。 トラベルジャーナリスト 山田友樹
トラベルボイス編集部