議員立法で救う弱者の権利 「荒野のともしび」を目指して【政界Web】
現行憲法下、国会議員が憲法違反の法律を堂々と通し、延々と個人の尊厳が踏みにじられてきた―。旧優生保護法に基づく強制不妊手術を巡り、こんな衝撃的な事実を最高裁大法廷判決が突き付けたのは今年7月3日。この3カ月後、それに対する補償を定めた法律が議員立法(議法)で成立した。毎年成立する法律の大半は政府(内閣)が出す「閣法」だが、それによっては救われない人権へ時に光を当てるのが議法だ。「荒野のともしび」を目指す取り組みに迫った。(時事通信政治部 武藤茉莉) 【図解】議員立法提出までの流れ
2万5000件の「違憲」手術
衆院解散前日の10月8日、参院本会議で「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律」が可決され、成立した。7月の違憲判決を受け、超党派の議員連盟が取りまとめた議法。強制不妊手術の被害者にそれぞれ補償金1500万円を支払うことが柱だ。 国会の調査によると、旧優生保護法は戦後の人口増や食糧難などを踏まえて1948年、衆参の議員10人の発議で提出された。一人の反対もなく、短時間の審議で成立。96年に議法で「母体保護法」として改められるまで半世紀近くの間、遺伝性疾患や精神障害のある人らに対して約2万5000件の不妊手術が行われたとされる。 最高裁大法廷は今回の判決で、立法行為自体について「当時の社会状況をいかに勘案しても正当と言えず、個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反する」と断じた。これを受け、当時の岸田文雄首相は訴訟の原告らと面会し、謝罪した。
償いも全会一致で
補償法はなぜ閣法ではなく議法だったのか。議連の事務局長を務める社民党の福島瑞穂党首は「国会の贖罪(しょくざい)としても補償法を作らなければならなかった」と振り返る。 議連は判決から間を置かずに法案策定のプロジェクトチーム(PT)を発足させ、被害者や弁護団の要望を聴きながら協議を重ねた。補償金(不妊手術の被害者本人に1500万円、配偶者に500万円)と一時金(人工妊娠中絶の被害者本人に200万円)の金額を含め、骨格が定まったのは9月18日。10月4日に法案が出来上がり、同7日に衆院へ提出された。 超党派で策定された経緯から、衆参両院とも全会一致で可決。併せて、「悔悟と反省の念を込めて深刻に(立法の)責任を認めるとともに、心から深く謝罪する」と決議した。