いろいろ乗ってきた世界のタクシー。でもやっぱりNYのイエローキャブは格別!
自動車ジャーナリストのレジェンド岡崎宏司氏が綴る、人気エッセイ。日本のモータリゼーションの黎明期から、現在まで縦横無尽に語り尽くします。 岡崎宏司の「クルマ備忘録」 半世紀以上に亘って欧米のさまざまな国でタクシーに乗ってきた筆者。なかでも最も強い印象に残っているのはNYを走るフルサイズのイエローキャブだという。ロンドン、パリ、イタリア、ドイツ……各所で乗ったタクシーの思い出とともに振り返ります。
タクシー、思い出のあれこれ
タクシーといえば、、まず僕の頭に思い浮かぶのは、NYのイエローキャブとロンドンタクシー。 初めてNYとロンドンを訪れたのは1964年。60年前のことだが、毒々しいほどに目立つ、黄色く巨大なNYのイエローキャブ、そして、黒でクラシックな佇まいのロンドンタクシーには、強いインパクトを受けた。 両車の姿佇まいは対照的。だが、ともに、世界に冠たる大都市の主人公であるかのような存在感とオーラを放っていた。 NYに行く前にLAでひと月ほどを過ごしたのだが、LAは、ほとんどの人が自らのクルマを自らが運転して移動する街。公共交通は、たまにくるバスくらい。だから、自分で運転しないと身動きが取れない。 タクシーも流しはほとんどない。なので、LAの友人からは、「飛行機を降りたらすぐレンタカーをピックアップしろ。そうしないとなにもできないぞ」とアドバイスされていた。 そこで、空港を出てすぐ飛び込んだのが「ハーツ レンタカー」。そして、憧れのマスタングをレンタルした。 以来、アメリカには、、とくにLAを中心にしたカリフォルニアには頻繁に行った。だが、タクシーを使ったのは一度だけ。
家内も一緒の時だったが、LAのステープルズセンターで、ロサンゼルス レイカーズ vs シカゴ ブルズのビッグマッチを観戦した時だ。 サンタモニカのホテルからステープルズセンターには、自分のクルマで行こうと思っていた。で、念の為に「駐車は難しくない?」とホテルのコンシェルジュに聞いたら、即座に「大混雑するから止めた方がいい」と。 そこで、タクシーを呼んでもらった。帰路も乗り場を決めて迎えにきてもらった。これが、LAでの唯一のタクシー歴ということになる。だが、その時の記憶はほとんどない。 どんなクルマだったのか、ドライバーはどんな感じだったのか、、まったく記憶にない。それだけ、LAのタクシーは、印象が希薄だったということなのだろう。 そんなことなので、LAのタクシーが、街の表情になにがしかの影響をもたらしていることもまったくない。 ところが、NYに移ると状況は一変。1964年はタクシー専用のチェッカーキャブがほとんどだったと思うが、、やたらに目立つ黄色の大型セダンがマンハッタンの繁華街を埋め尽くす様は、今も鮮明に思い出す。 NYのイエローキャブは、映画や雑誌などでよく見ていたこともあって、なんとなく親近感を感じていたし、「NYに来たんだ!!」という実感をも強く持たせてくれた。 60年前のLAのクルマは、おっとり整然と流れていた。が、NYは真逆。LAではほとんど聞かれなかったクラクションが鳴り響き、クルマはわれ先へとノーズを突っ込んでいく。なかでもイエローキャブにそれは目立った。