「消えたコメ」が戻ってきたら「コメが高い!」になっていた 9月の消費者物価指数で東京23区内では前年比4割高
ただし、需要見通しを3月時点から7月にかけて約20万トン引き上げた。その理由として、回復したインバウンド需要に加え、輸入インフレで食料品が値上がりする中、コメに値頃感が出たことを挙げている。 また需要・生産見通しは玄米で測ったものだが、精米した際の歩留まりが2023年産では天候要因のため低く、玄米換算の需要量が増えたとも説明する。 ■「ブレーキとアクセル」のコメ政策 コメの需要が思わぬ回復を見せたところに、備蓄の買いだめが起き、天候要因もあった――という釈明だが、要因はそうした避けようのない事象だけではない。
長くコメ業界を取材してきた元『米穀新聞』記者の熊野孝文氏は、今回のコメ不足や価格急騰について「問題は主食用という区分けにある」と指摘する。 「主食用」という言葉の意味は、「大きなご飯粒で日本国内にいる人間の口に入るコメ」とでもいえばいいだろうか。農水省の需給見通しはあくまで「主食用」についてのものだ。 前述したふるい下米には低価格帯のご飯用として流通するものがあるが、「主食用」にはその一部しかカウントされない。それに、日本で作られているコメは「主食用」に限らない。家畜の餌にする飼料用に加工用、輸出用、米粉用……こうした用途を政策的に拡大してきた。
ご飯向けのコメに比べて価格が低いため、補助金を支払って生産者を誘導している。これにより「主食用」の生産を抑制でき価格を維持している。 コメを作付けして田んぼのままにしておけば、いざという時には主食用の生産を拡大することができる。コメの価格維持と食料安全保障の両面を持つ方策ではあるが、用途を分けても、いずれもコメであることに変わりはない。 主食用の生産を抑制し、それ以外を増やすという現状のコメ政策について熊野氏は「ブレーキとアクセルを一緒に踏んでいるようなもの」と指摘する。
加えて、主食用以外のコメについては作付け段階から用途を限定しているため、足りないニーズには回らない。飼料用や輸出用として補助金を受け取りながら、ご飯向けが品薄だからと振り向けるのは禁じ手だ。 いびつな政策のツケは消費者に回っている。高値のコメと補助金の税負担という両方を負っているのだ。低所得者世帯ほど生活必需品が高値であることの負担は大きい。 では、どのような手が打てるのか。 農政調査委員会の吉田俊幸理事長は次のように提起する。「価格維持を目的とする生産調整を見直し、生産者への所得補償とコメの増産・輸出へ転換する時に来ている。価格が下落すれば、輸出をはじめ需要拡大につながる。生産者の所得減に対しては所得補償でカバーできる」。