安藤優子×浜田敬子×星薫子 ノーベル平和賞受賞イランの「白い拷問」告発は他人事ではない
必要なのは連帯の輪
『白い拷問』のなかで、市民活動化のアテナ・ダエミは「独房監禁についてどう思いますか?」という質問に次のように答えている。 「独房は、缶詰のようなものです。中から開けることは絶対に不可能で、重圧、孤立、不安がその缶をつぶさんばかりに叩きつけてくるのです。」 安藤:「独房での描写のなかで強く印象に残っているのが、『缶詰』という表現です。独房は何の音もせず臭ってくるのはトイレの悪臭だけ。蟻などの生き物がいないかくまなく探し、見つけるとあとを追いかけ、何時間も蟻に話しかけ、昼食が出たときにはパンを床にまいて呼び寄せようとしたと書かれています。ハエが来たときは大喜びして、ドアが開くときに逃げられないように気をつけたと証言している人もいました。そんなかそけき生き物にもすがるほどの絶望的な孤独は、日本では想像しづらいかもしれませんが、『缶詰』のなかで感じる重圧、孤立、不安は今の日本にも通じるものがある気がしています。 『白い拷問』の女性たちはそれぞれに、ものすごい痛みを経験し傷を負って後遺症に苦しんでいるけれど、そこには連帯の輪があります。言葉がおかしいかもしれませんが、うらやましくなりました。私たちは日本で、恵まれた環境のなかで女性問題を解決しようとしているけれど、いざ声をあげて傷を負った人に対して多くの人が『ほらみろ、缶詰の天井を破ろうとなんてするから傷を負うんだよ』と言うでしょう。一部の人は『よくやってくれた』と言うかもしれませんが、傷ついた様子を見て後に続こうという人はいない。一度は声を上げた人ももう一度チャレンジしようという気にはならないと思うんです。そんな状況から見るととても失礼な言い方かもしれませんが、どん底で問題を解決しようと連帯の輪ができているイランの女性の強さに、希望の光を感じます」
男性優位主義は男性も女性も幸せにしない
星:「本のなかでマルジエさんは、『男性優位の社会で、そしてその結果として構築されたヒエラルキーのなかで、男性は優位性を求めます。そしてひとたびヒエラルキーからこぼれ落ちると、権威が揺らいで失墜してしまうため、打たれ弱いのです。傷つきやすく、か弱い存在に転落します』と言っています」 浜田:「今のイランの政権もそうだと思うのですが、日本も同様にマチズモ(男性優位主義)のようなもので支配されているんです。じゃあそれで、権力者ではない一般の男性すべてハッピーかというとそうではなくて彼らも苦しいんですよ。社会のシステムも意識も変えていく必要があると思うのですが、ここを変えるのはなかなか難しいんですよね」 安藤:「本当にそう! 意識を変えることとシステムを変えることは、卵が先か鶏が先かというくらい分けて考えられないことですよね。システムを改革しても意識が追いついていなければ結局、絵に描いた餅だしね。反対に意識が改善されてもシステムがそのままならうまく機能しません。どちらも一緒にやっていかなくちゃいけないのに、遅々とした状態ながらも制度改革は進んでいますが、全然追いついていないのは意識だと私は思います。 『おい! お茶くれ! 』なんていう男性からの発言など日々、ちょっとしたことで私たちは傷ついたりしますよね。でも『ありがとう』のひとことがその傷を癒したり。日々のコミュニケーションのなかで意識改革が進むと私は信じていて、ものすごいエンジン付きの何かで一気に改革が進むということはないと思っているんです。人によっては何百回同じことを言わなければならないの! と思うかもしれないけれど、エネルギーを絶やさず言い続けることでちょっとずつ、ちょっとずつ変わっていくと信じています」 構成・文/中原美絵子
中原 美絵子(フリーランスライター)