安藤優子×浜田敬子×星薫子 ノーベル平和賞受賞イランの「白い拷問」告発は他人事ではない
イラン・イスラム共和国と聞くと、「厳格なイスラム教の危険な国」という漠然としたイメージが浮かぶという人は多いかもしれません。日本人の私たちからすると危険に思われる国イランにも当然、日本と同じように社会に出て働く人がいて、結婚し妻となり母親になった女性たちも暮らしています。大きく違うのは、抑圧や差別に声を上げて変革を望む政治的抵抗運動に身を捧げた結果、長期の禁固刑を科される現実があるということ……。 『白い拷問 自由のために闘うイラン女性の記録』は、イランの人権活動家ナルゲス・モハンマディが女性刑務所の内情を暴いたノンフィクションです。ナルゲス氏は大学卒業後イランの企業で検査技師として働きながら改革派の出版物や新聞に積極的に寄稿を続け、2023年獄中でノーベル平和賞を受賞しました。男女の双子の母親でもあります。 【写真】ノーベル平和賞受賞式。イランで収監中のナルゲス氏に代わり息子と娘が… この『白い拷問』の感想から女性の人権について、さらには日本の「子持ち様問題」まで語り尽くした安藤優子さん、浜田敬子さん、翻訳した星薫子さん3人の鼎談を、3回に分けてお伝えしてきた本記事。最終回は、自由のために闘うイラン女性の問題は他人事ではないと気づかされていった理由をお届けします。
独房で過ごす日々は常に恐怖に彩られています
星薫子(以後、星):「最初、人権活動家のナルゲスさんの言葉には【革命】【闘争】といった英単語が出てきて、日常生活とはかけ離れたボキャブラリーが多いなと感じていたんです。日本の読者との温度差ができてしまう気がして、これでいいのか迷いながら訳していました。それが、進めていくと『この問題はイランだけではなく日本でも言えることだ』と思うようになり、どんどん引き込まれていきました」 たとえば最後の証言者、ジャーナリストのマルジエ・アミリさんは本書の中で次のように語っている。 「独房で過ごす日々は常に恐怖に彩られています。恐怖、叱責、懲罰、孤立、恫喝、剥奪、抑圧、これらが拘禁中の囚人に否応なく押しつけられます。しかし実のところ女性は、逮捕の前から、あらゆる制度の背後にこのような空気を感じてきました。自分で体験していなくても、他の女性の体験として見聞きしたことはあります。私は女性としてこの空気を、父から、兄から、私を縛る家父長的な制度から、押しつけられてきました。この空気はそれ自体が支配者であり、あるいは少なくとも、私の決断や選択を奪い、私の運命の決定権を握っているかのように振る舞います。 刑務所では、尋問官は単なる尋問官ではありません。彼らは家父長的な秩序を体現した存在で、彼らの思いどおりになることを拒んだ女性から声を奪います。こういう構造のなかで、ちゃんとした女性として社会に居場所があって敬意を払われるのは、おとなしく従順で、既存の秩序を受け入れ、そのなかで生きていくことを引き受けた女性だけです。」(『白い拷問』より) 星:「宗教とは関係なくイランの家父長制が女性を縛っているということを、マルジエさんは見破っているんですよね。訳しながら彼女の文章に感情移入していき、イラン女性の人権の問題はイランだけの問題じゃないと強く感じるようになりました」