瞬発力磨く手縫い足袋 花咲徳栄、伝統の冬練習 職人も応援「悔いない試合を」 /埼玉
<センバツ高校野球> 第92回選抜高校野球大会出場を決めた花咲徳栄では毎年12月~2月の間、足の指を強化し瞬発力や安定感を身につけるために、地下足袋をはいて冬練習に励んでいる。2017年冬からは行田市の会社が全部員の名前入り地下足袋を特注で製作。1足ずつ手縫いで作り上げてきた足袋職人の男性も、選手らの甲子園での活躍を心待ちにしている。【平本絢子】 【動画】センバツ出場校、秋季大会熱闘の軌跡 「よっしゃ、いこう」「気合入れていくぞ」。2月15日、加須市の花咲徳栄グラウンド。練習に励む選手らの足元は、スパイクではなく紺色の地下足袋だった。その側面には校歌に登場する富士山と、佐藤照子初代校長が「春に最初に咲く花」として愛した梅の花が縫い込まれている。17年冬から使用する特製の地下足袋だ。 地下足袋を使った冬練習は「地面をしっかりととらえて瞬発力を身につける」(岩井隆監督)ため、稲垣人司前監督から受け継がれる40年来の伝統だ。この日は冬練習の最終日。エースの高森陽生投手(2年)の地下足袋は所々すり切れ、使い込まれていた。「足首の強化につながり、スパイクに切り替えた時にスピードも上がった」と話す。 特製の地下足袋を手がけるのは、作業服などを取り扱う行田市の会社「武蔵野ユニフォーム」。小松和弘代表取締役(47)が数年前、岩井監督に作製を提案し、それまで使用していた市販の地下足袋に代わるものとして、デザインなどを話し合って作り上げた。 行田市は足袋の国内シェア1位を誇り、今年1月には足袋製造用具が国の重要有形民俗文化財に指定されることが発表された。花咲徳栄の特製地下足袋も、本体の作製は行田市の職人一家が同社から発注を受けて請け負う。職人の男性(69)は「全工程を自分たちでやっている自負があります」と誇らしげに話す。ただし、「自分は足袋の業界の末席だから」と、取材には匿名を希望した。 妻と姉2人の計4人が働く自宅兼工場には、戦前からドイツで靴を作る時に使われてきたという百年もののミシン4台が並ぶ。寒い季節になると、地下足袋に使用する藍染めの生地が硬くなるが、選手の足のサイズに合わせたゴム底はどんな時も一針ずつ手で縫い付けられる。「高校生の時から父母がやっているのを見よう見まねで学んだ」という熟練の技が光る。 個人的にも野球になじみが深い。約30年にわたり、2級公式審判員の資格保有者として、県の高校野球の大会や練習試合で審判を務めてきた。1月上旬には花咲徳栄グラウンドを訪れ、初めて選手が足袋をはいて練習する姿を目にした。「高校3年間に人生をかける覚悟を感じた」と言う。 この春、同校の野球部員は地元で作られた足袋で冬を越して初めてのセンバツに挑む。「(甲子園は)自分にとって果たせなかった夢で、憧れ。勝っても負けても、悔いが残らなければそれでいい」。野球を愛する職人として、選手の背中を優しく見守っている。