戦時中の米国での日系人強制収容「後世に」 「当事者の声」アーカイブ続ける米団体
「なぜ今知る必要があるのか」
ここで疑問が生まれる。なぜ非営利団体がここまでの労力をかけて70年以上前の出来事を記録し続けているのだろうか? そのモチベーションはどこから沸くのだろうか? そのヒントは、団体HP内の「WHY DOES THIS MATTER NOW?(なぜ今知る必要があるのか?)」と銘打たれた箇所で見い出すことができる。例えば以下のような文言が並ぶ。 “移民、テロリズム、公安の名のもとでの市民の自由の侵害をめぐる現代の論争に取り組んでいるとき、過去と現在の類似点がたくさんあります” “このサイトの資料は、社会が脅されたときに正義・平等など民主的な理想を簡単に捨てて、仮想敵を追いかけることができるという事実を証明しています” “人種、民族、性別、セクシャリティなどによって特定の人々が不当に扱われた場合、かつてそのような差別的な政策の犠牲者であった日系アメリカ人には大きな声を上げる力と責任が生まれます”
つまり、強制収容の歴史を「過去の問題」として片づけるのではなく、「現代にも通じる問題」として社会を構成する一人一人が再認識する必要があるという主張だ。この考えはDENSHOの一貫した姿勢としてそこかしこで垣間見ることができる。
過去を発信し「公正な世界に寄与」
HP内やトム・イケダ氏が毎月一度発信しているメルマガでも、時事的な問題に触れながら差別の危険性に警鐘を鳴らしたり、過去の歴史を教訓にするよう訴えたりしている。例えば2017年9月22日に投稿されたHP内のブログでは、ドナルド・トランプ大統領について以下のように触れている。 “トランプのイスラム嫌悪、反移民の姿勢はすでにヘイトクライム(憎悪犯罪)を多く生み出しており、米国内のイスラム教徒、シーク教徒、ヒンズー教徒、アラブ人、南アジア人らを危険にさらし続けています” 2019年8月のメルマガでも、イケダ氏はテキサス州エルパソで同月に起きた、ヒスパニック(中南米からの移住者)系住民に対して憎悪を抱いた白人男性による銃乱射事件を引き合いに、以下のように強調している。 “かつてアイデンティティのために投獄された日系人の息子・孫として、私は白人至上主義者の暴力的行為に直面して沈黙を保つことができません。『二度と起こさない』と行動すべきときは今です” いかなる時代においても差別や人権の無視は許されるものではない、との姿勢を鮮明にするDENSHOはインタビューや過去の歴史的資料を提示するだけにとどまらず、ときに社会的事象や政治家の言動への痛烈な批判にも踏み込む。19年10月のメルマガにある以下の一節が団体の意志を最も端的に表していると言えるのではないか。 “これらの物語(オーラルヒストリ―)を静かに保存するだけではもはや十分ではありません。私たちは、過去の歴史を活発に発信し、より公正な世界を築くために寄与しなければなりません”