哀川 翔「男はあんまり余計なことを言わないのがカッコいいな」
娘と息子は違う。娘との距離感をどういう風に保っていくか
今回の映画 『一月の声に歓びを刻め』は、国内外の映画祭で高い評価を受ける三島有紀子監督が47年間向き合い続けた「ある事件」をモチーフに⾃主映画からスタートしたオリジナル企画。「性暴⼒と⼼の傷」という難しいテーマにあえて挑み、⼼の中に⽣まれる罪の意識を静かに深く⾒つめる映画である。 哀川さんが演じるキャラクター、赤松誠は早くに妻を亡くし、ぶっきらぼうながらも八丈島で娘を男手一つで育ててきた牛飼いの男性。頑固な性格ながらも娘を誰よりも深く愛する父親として描かれている。しかし、今回のような日常のささいな出来事や人間の感情を表現する役は、なかなか難しい経験だったという 。 「あんまりこういう親子の感情を表現するような役はやってこなかったですから。特に娘との関係というのは。今までは“切った張った”が多かったからね(笑)。感情を表に出しては出来ないようなことばっかりやってきたから。普通の人をやるって言うのは難しいですよ。逆に」 映画の中で哀川さんは新しい人生の門出に立つ娘の自立を静かに見守る、その複雑な心情を、控えめながらも力強い演技で 表現している。
「娘を持つ親としてはね、いろんなことで娘との距離を味わうことがあると思うんです。やっぱり、娘と息子は違いますからね。その辺の距離感をどういう風に保っていくかという。そこは結構大事にして取り組んでいきました」 実際に娘さんを育てた経験もある哀川さんですが、ご自身の経験が生かされたことは? 「それはないですね。 あんまり自分の経験を入れちゃうと、登場人物のキャラがブレたりするんで。ただ、もしその立場に置かれたらとかは考えます。今回は俺でもそうするよなという所がたくさんありました。だから取り組みとしてはすごくやりやすかったですね」 その中で特に共感した部分は? 「やっぱりちょっとオブラートをかけて(娘に)発言するというね。なかなか『妊娠してんだろ』って言えないからね(笑)。あれはもう、言わなくちゃいけないという思いで言ったという。そういう所は凄く共感できますよね。 親だからこそ言わなくちゃいけないというところもあるし、娘も親だからこそぶつかれるという。親子としての感情がぶつかり合うというのはすごく素敵なことだと思って。なかなかぶつかり合うことがなくなってくるんですよ。でもそういうことがとても大切なことなんじゃないかと。親子だからこそありうるというね」