哀川 翔「男はあんまり余計なことを言わないのがカッコいいな」
三島有紀子監督の映画 『一月の声に歓びを刻め』に出演する哀川 翔さんに話を伺った。すでに200作を超える作品に出続けてきたなかで、哀川さんの迷いなきスタイルはどのように作られていったのか? 【写真】「カッコいい大人」の条件ってなんだ?
自分で信念持って生きてたら、あんまり言い訳することないと思う
冬の息吹が街を包む師走のある日、都会のビルの屋上で一つの撮影が行われていた。空は曇りがちで、肌を刺すような冷たい風が吹いていたが、そんな寒さを気にするふうもなく、一人の男がカメラの前に凛として立っている。 彼は、カメラマンからの要求に応じて、様々なポーズを取りながら、撮影を楽しんでいるようだった 。時折、カメラマンが「ナイス! 最高!」と叫び、その熱気を帯びた声に小さく照れたような笑顔を浮かべる。 被写体となっていたのはアニキこと哀川 翔さん。1988年に俳優としてデビュー以来、アクション映画の硬派な役割からコメディや人情ドラマに至るまで、幅広いジャンルで活躍してきた。近年は強面のイメージを裏切る誠実で人間味あふれるキャラクターも大いに愛されているのはご承知の通りだ。 この日、哀川さんが出演する映画 『一月の声に歓びを刻め』に絡めて色々お話を伺ったのだが、その最後に「長年のキャリアを通じて、業界の最前線に立ち続ける哀川さんが考えるカッコいい大人とは?」という質問をした。 しばしの間があって哀川さんはこう答えた。 「あんまり余計なことを言わないのがカッコいいな。よっぽどじゃない限り口を開かない方がカッコ良くない?」
それは、言い訳をしないとか、そういうこと? 「そうだね。言い訳してもいいことないからね、肯定することはいいけど、否定することはあんまりよくないと思うし。自分で信念持って生きてたら、あんまり言い訳することないと思うんだよね。誰にだって非はあると思うけど、その非も含めてそれが自分だと思えば、言い訳が必要だとは思わないし」 このひと言が哀川さんのすべてを表しているように思えた。どんなことでも正面から受け止め、それでもみじんも揺らぐことのない大きな器のような人。 映画制作現場で哀川さんが大切にしていることを伺った時にはこんな答えが返ってきた。 「俳優だからニーズに応えるっていうことかな。オーダーに応えることが俳優だと思っているので。自分の中に『NO』はあんまりないんですよね。だから『普通の人だったらNOって言うんですけどね』ってよく言われるんだけど(笑)。それは監督がやれって言うんだったら『NO』はない」 何故そこまで言い切れるのか? 「映画って、主演作品ということがあっても、その前に監督作なんだよね。すべて監督のせいですよ(笑)。俺も1回だけやったことがあるけど本当に大変なことなんです。だからそれを考えると、俺は『NO』という意味がないなと。やれっていうなら『はい』っていう(笑)。よっぽどじゃないとって、そんなよっぽどはないですよ(笑)。でも、それがキャラクターのフックになったりするんですよね。キャラがそこに確立されたりするんです」 すべては前向きに、求められたことを全力でやりぬくのが哀川流。