<中国史はビジネスの武器になる>中国が嫌いな人ほど学んでほしい 食わず嫌いは「日本の損失」~安田峰俊×高口康太~
「中国史の知識とは、単なる好事家のオタク雑学や、カビの生えた無用の学問ではない。現代中国と対峙して分析するという『業務』のうえでは、会計やプログラミングなどと同様に役にたつ実用的知識である」と断言しているのが、紀実作家の安田峰俊氏による『中国ぎらいのための中国史』(PHP新書)だ。2024年9月に上梓した後、「出版即重版」という快進撃を続けている。 【画像】<中国史はビジネスの武器になる>中国が嫌いな人ほど学んでほしい 食わず嫌いは「日本の損失」~安田峰俊×高口康太~ 中国史は武器になるとの主張は、筆者(高口康太)も大いに同意するところ。というのも安田氏同様、筆者も大学院で中国史を学んだキャリアを持つ。フリーの物書きという不安定な仕事ながらも、ここまで生き延びてこられたのは歴史学という武器を持っていたからだと感じていた。 そこで安田氏との対談を通じて、改めて中国史がどう使えるのかを掘り下げてみたい。はたして、中国史は本当に「ビジネスに使える」のか? その答えを、この対談から見つけ出してほしい。
中国軍と台湾軍、「孫子の軍隊」だからわかる機微
高口:中国についてリサーチしていると、あらゆるところで歴史の引用にでくわします。本書ではその一例として、新型コロナウイルス対策では、国営テレビ局CCTVが「習近平の対コロナ兵法 彼を知り己を知れば百戦危うからず」というウェブ特集を配信したことを紹介されていますね。 安田:2020年4月ごろ、「習兵法」はやたらと喧伝されていました。当時は初期のコロナ対策が成功した時期で、「習近平総書記は現代の孫子だ、名軍師だ」と褒めたたえていたのです。一種のプロパガンダです。21年夏ごろから中国のコロナ対策はほころびはじめるので、「習兵法」もこっそりフェイドアウトするのですが(笑) 高口:強権的なコロナ対策に中国人が従ったのは、「米国や日本ではバタバタ人が死んでいる。中国共産党のすばらしいコロナ対策に守られている我々はラッキーだ」というプロパガンダが成功したためと聞いています。その一環ということなんでしょいうね。 これだけを見ると、中国共産党のプロパガンダが単に歴史を引用しがちというように見えますが、単に民衆を惑わす方便にとどまらないと考えています。すなわち、統治者である国共産党の発想も、歴史に深く規定されていたのではないのでしょうか。 安田:大いに同意します。 印象深いエピソードがあります。2年ほど前、台湾有事が実際に起きる可能性について、台湾の軍事学者に取材しました。彼は開口一番、中国の人民解放軍も台湾の軍隊も、「孫子と三国志の軍隊」である点は変わらないと言いました。 中国と台湾、どちらの軍人も孫子や三国志演義などの古典には深いなじみがある。娯楽や教養としての読書なのでしょうが、その影響は大きい。軍人の発想は古典に裏打ちされているというのです。