<中国史はビジネスの武器になる>中国が嫌いな人ほど学んでほしい 食わず嫌いは「日本の損失」~安田峰俊×高口康太~
1949年の中華人民共和国の成立から70年あまり。この間、中国と台湾の対立は続いています。つまり、双方の軍人には1~2世代の断絶があるわけですが、それでも古典を通じて肌感覚は共通している、機微はわかっているわけです。 何が起きれば後戻りの出来ない衝突に発展するのか、どこまでなら許容範囲なのか双方が理解している。その上で戦争にならない、ぎりぎりのラインで中国の威圧は行われています。 米軍高官の2027年までに中国の脅威が顕在化するという発言や、22年8月以降定期的に実施されている台湾周囲での人民解放軍の演習によって、台湾有事は間近、武力衝突は近づいていると考える人が世界で増えています。しかし、その最前線に立たされているはずの台湾は、過去70年以上やってきたことだからと、ある意味でのんびりしている。台湾側の軍事演習も取材しましたが、軍人も現地メディアもユルくてびっくりしましたから。 同じ文化を共有しているからこその見切りというべきでしょう。中国のおどろおどろしい脅し文句や、派手な軍事的威圧を見透かしているわけです。
中国外交はなぜ、〝強圧的〟になったか
高口:それで言うと、戦狼外交も似たところがありますね。17年ごろから中国外交官による強圧的・威圧的な対応が欧米メディアで大きな話題となり、日本でも注目を集めました。ただ、実は中国外交官がああした強烈な文言を使うのは前々からの話で、米中対立のあおりでたまたま注目されたという側面もあります。 安田:中国の世界観は多分に儒教的秩序の影響を受けているといいますか、国と国は対等ではなく、どちらが上か下かという序列によって成り立っているのではないか、と。だからナチュラルに「小国が大国に口答えするのか」といった発言が出てしまう。 序列が上の大国が、小国相手に少々強引なことをいっても問題ないという感覚ですね。もちろん中国の外交官も、近代以降の国際社会の大原則である「主権国家の平等」の概念について言葉の上では理解をしているはずですが、実際の国際理解については歴史的な影響も多分に受けている。 かつては中国のほうが弱い、貧しいという状況があり、先進国から学ばなければならないと下手にでる必要があったわけですが、豊かになった今は儒教的秩序に基づく大国意識がもれ出てしまうようになった。だから、戦狼外交が始まった。国際秩序への挑戦だと騒がれていますが、中国側にはさほど特別なことをやってやったという意識はないように見えます。