阪神藤浪と日ハム佑ちゃん。共に復活を目指す崖っぷちの2人の甲子園優勝投手は沖縄対決に何を見せて何を感じたのか?
一方の斎藤も新たなチャレンジを形にしてみせた。超技巧派への変身である。ストレートは136、137キロ程度だが、すべて手元で動かし、プロ10年目にして封印を解いた100キロの超スローカーブに加え、110キロ、120キロ台のチェンジアップ、フォークで緩急をつけて打者に錯覚を引き起こして翻弄していく。”タメ”のなかった昨年までのフォームとはガラリと変わり腕が振れるようになっていた。 一死から阪神の2020打線の売りのひとつ「2番・近本」をブレーキのかかったチェンジアップで三振に取ると、高山を歩かせた後、4番大山との対戦が象徴的だった。 インサイドに137キロ、136キロのストレートを続けた。そのボールを印象づけておき、最後は117キロのフォーク。緩急にゾーンを立体的に使われ大山のバットは空を切った。 2回には、先頭の糸原にライト前ヒットを打たれたが、続く北條の2球目には100キロ表示のカーブで目先を変え、最後は119キロのチェンジアップでスイングアウト。続く陽川にも途中インサイドを見せておいて最後は110キロ台のチェンジアップを使い三振に仕留めた。 2回を投げて1安打4三振。「低めに集め抑えること」をテーマにしていたというが、配球、緩急、読みを駆使。「簡単に打てる」と振りにくる打者の心理を逆手に取った究極の頭脳ピッチングである。 前出のヤクルト・山口スコアラーは「パの担当ではないので、初めて見たが、小さくシュートさせているストレートを使い、腕をしっかりと振っているのでチェンジアップ、フォーク、パームの遅いボールが有効的だった。コントロールも低めにまとまっていた。阪神みたいな打線には通用するんじゃないか。交流戦で栗山監督があえて使ってくるかも」という感想を口にした。 ちなみに山口スコアラーも、1984年のセンバツ甲子園で、東京・岩倉高のエースとしてPL学園戦のKKコンビを抑えて頂点に立った元甲子園優勝投手である。 ただ斎藤のピッチングにはテンポがなく、配球勝負では中継ぎ起用は難しい。糸原に二盗を許したが遅いボールを使うので機動力に弱いというリスクもある。斎藤を起用するなら先発だろう。それでも日ハムが採用している「オープナー」を使うくらいなら佑ちゃんに5回を任せれば十分にゲームを作る可能性はあるだろう。 試合中に取材対応していた斎藤の話を直接は聞けなかったが、甲子園優勝投手対決となったことに対して「(藤浪は)いいピッチャー。刺激になる。投げ合えたことが良かった」と語ったという。 甲子園の大舞台で頂点に立った人間にしかわからぬ“同志“のような意識があったのかもしれない。藤浪の6歳年上の齋藤のコメントは、崖っぷちのシーズンを迎える自らへの叱咤であり、同じく苦しみもがく後輩への激励のメッセージにも思えた。