冷戦期の遺物「核共有」にこだわる石破首相の思考。アメリカは拒否、核不拡散条約違反との批判も
核弾頭付きのポラリス・ミサイル(アメリカが開発した潜水艦発射弾道ミサイル)を潜水艦や水上艦に装備し、これをNATO諸国の「共同所有・共同管理下」に置いて、複数国の乗員で運用するというものだ。だが、運用の複雑さなどから、最終的にはNPT草案の交渉の中で放棄された。 生き残った「核共有」システムでは、核使用の準備も搭載も離陸もアメリカの承認が前提となる。投下の決定を下すのはアメリカ大統領だ。4カ国が勝手に「共有核」を使うことはできない。
日本に核共有が導入されることになると、NPT発効以後に実施されるまれなケースとなる(2022年以来、ロシアの核兵器をベラルーシに配備して核共有体制に置くという計画について両国首脳が語ってきているが、実際の配備は確認されていない)。 多くの国から、NPTに違反、あるいは、少なくともNPTの精神に反するものだとの批判の声が上がるだろう。 そもそも、NATOの核共有を正当化するアメリカの論理を批判する国は少なくない。例えば、1999年には批判派が国連総会に出した決議案に、「NPTの各条項は、各加盟国に対して、常に、いかなる状況においても拘束力を持つ」との文言が入れられ、これが可決されている(賛成111、反対13、棄権39。日本は棄権)。
ましてや、新たな導入となると、日本が独自に国是として宣言している非核三原則に違反するというのとは次元が異なる話だ。 防衛省防衛研究所所長も務めた髙見澤將林・元軍縮会議日本政府代表部大使も、2022年に共著『核兵器について、本音で話そう』の中で、「NATOと同じような形でのシェアリングをすると、恐らくNPT的な説明としてはなかなか抜け道がないんじゃないか」と述べている。 ■核共有は冷戦初期の発想の遺物
冷戦時代の当初、旧ソ連を中心としたワルシャワ条約機構(WTO)の圧倒的通常兵力に対抗するためとして1954年から核砲弾、核爆弾、短距離ミサイル、核地雷などアメリカ軍のさまざまな核兵器のヨーロッパへの配備が進められ、1971年には約7300発を数えてピークに達した。 西側に侵攻してくる旧ソ連の戦車を短距離ミサイルや核砲弾で狙う、侵入後も西側領土内で核砲弾や核地雷により破壊するなどという乱暴な発想だ。冷戦終焉時には約4000発だったこれらの地上配備核は、1991年にブッシュ(父)大統領が発表した一方的核削減措置で、空中発射式核爆弾700発を除き撤去されることになった。ソ連側に同様の行為を呼びかけるためだ。