イスラエルは戦争に負けている【コラム】
チョン・ウィギル|国際部先任記者
韓国においてイスラエルについての神話は根強い。悪者の巨人ゴリアテに立ち向かう「正義感あふれる強いダビデ」というフレームの神話だ。 戦争が起こればイスラエル国民は国外にいても帰国して参戦するが、アラブ諸国の国民は我さきに逃げるという話は、学生時代に耳にたこができるほど聞いた。「正義感あふれる強いダビデ」フレームにおける「正義感あふれる」という修飾語は、今ではかなり薄まっている。イスラエルがパレスチナ住民を追い出して建国され、今もその住民たちを死のふちへと追いやっている現実に、韓国でも目をつぶれない状況になっているからだ。だが、「強い」という神話は相変わらずだ。人口が数十倍にもなる周辺国と戦争する度に勝つものだから、韓国もイスラエルに学ぶべきだと言って、今も畏敬の念を抱いている。 代表的な例が、イスラエルの防空網に対する賛美だ。私は長いあいだ記者として国際問題を扱っているが、イスラエルが戦争する度に登場する記事がある。アイアンドームを含めた多重防空網は鉄壁の防御網だとする紹介記事だ。今回のガザ戦争も例外ではない。結論から言うと、イスラエルの防空網は今回、何度も突破されている。 ガザ戦争を触発した昨年10月7日のハマスによる奇襲攻撃の際、数千発が同時に発射されたロケット砲を前にして、イスラエルの防空網は無力だった。今年4月のイランからのミサイルとドローンによる攻撃の際にも突破された。イランが攻撃を周辺国に事前に通告し、米軍とヨルダンがイスラエルに加勢して迎撃したにもかかわらず、何発かのミサイルが軍事基地周辺に落ちた。今月1日にイランが周辺国に通告せずに180発の弾道ミサイルで攻撃した際には、少なくとも32発のミサイルがイスラエル軍の基地などに打撃を与えた。イスラエルはすべて迎撃した、被害はないと発表したが、うそだ。 ステルス戦闘機F35があるため最も重要なネバティム空軍基地の格納庫は破壊された。あの有名なモサド本部も、近くをミサイルで攻撃された。中東の米軍が迎撃に加わったにもかかわらず、このような被害が出た。今月12日にはヒズボラの低性能ドローンでハイファ一帯が攻撃され、イスラエル兵4人が死亡し60人が負傷した。イスラエルの報復攻撃とイランの再反撃の応酬が続けば、イスラエルの防空網が耐えられるかは疑問だ。 イスラエルはイランの核施設や石油施設を攻撃すると脅している。ネタニヤフ首相は、イラン軍の施設を報復攻撃することを米国のバイデン大統領との電話で表明したという。米国はイスラエルに終末高高度防衛ミサイル(THAAD)システムを提供することを発表している。イスラエルがイランに報復攻撃を行う際に、イスラエルの安保と安全を保障できないからこそ登場した対策だ。 地上戦も同じだ。10月にはじまったヒズボラとの地上戦は、レバノン南部でこう着状態だ。地上戦に先立ち、イスラエルはレバノン南部やベイルートなどに大々的な爆撃と空爆を加え、第2のガザにした。レバノン国民の6人に1人に相当する100万人が難民となり、1200人の民間人が死亡した。その後、レバノン南部でヒズボラが地上戦に突入し、最初の交戦でイスラエル軍に8人の戦死者が出た。ヒズボラは毎日、ロケット砲とドローンでイスラエル北部を攻撃している。当初から軍事専門家たちは、イスラエルはヒズボラの能力を決して破壊できないし、ヒズボラはイスラエル軍がレバノン国境を越えてくるのをひたすら待っていると警告していた。 イスラエルは米国に対し、数週間以内にレバノンでの地上戦を終わらせると表明したという。できるかどうかは見守らなければならない。確かなのは、彼らの掲げたレバノン南部でのヒズボラの掃討とイスラエル北部住民の安全な帰宅という目標は達成できない、ということだ。 建国以来のイスラエルの軍事教理は「敵の領土において短期決戦で決定的勝利を収める」というものだった。このような神話は、イスラエルが1978年に最初にレバノンに侵攻した後に崩壊した。1982年と2006年のレバノン戦争は、決定的な勝利を収めることも、目標を達成することもなく長期化した。特に2006年のレバノン戦争は、イスラエル政府の調査委員会も「戦略的失敗」と規定している。 ガザ戦争勃発からイスラエルは戦争を1年以上引きずっており、複数の戦線を抱えている。今や国連平和維持軍すら攻撃している。中東紛争は結局、政治的に解決されなければならない。イスラエルは今、政治的解決策もなく軍事力ばかりに頼っている。何よりも、ネタニヤフ極右政権の権力維持のために戦争の拡大へとつっ走っている。このような戦争は勝てない。戦闘に勝ち、戦争に負けるということだ。国際社会で沸騰するイスラエルに対する非難をみると、イスラエルはすでに戦争で負けている。 チョン・ウィギル|国際部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )