新紙幣の顔、渋沢栄一の日本酒誕生 旧居、東京・飛鳥山で〝奇跡の酵母〟発見 近ごろ都に流行るもの
北区には長く東京23区唯一の酒蔵として知られた小山酒造があったが、平成30年に廃業。その2年前、入れ替わるように清酒製造を立ち上げた東京港醸造(東京都港区)がプロジェクトの酒造りを担い、産学連携する東京バイオテクノロジー専門学校(東京都大田区)と総力を結集した。
醸造発酵コースの学生が3年をかけて計209種の酵母を採取。分離と培養の結果、スミレ科ビオラの花粉とケヤキの樹皮に付いていた2種から酒造の好適性が発見された。わずか1%の確率だ。「渋沢翁が幸運をもたらしてくれたような奇跡。非常に発酵力の強いやんちゃな酵母と、欧州でワインに使われている系統のおっとり型の酵母。2つを混ぜて使い『飛鳥山酵母』と命名しました」と、同校講師で日本醸造協会元会長の石川雄章さん(82)。
綿棒を手に採取に参加し、3月に卒業した長島真歩さん(21)は、完成品を試飲して「なんて飲みやすい。やり切った!」と万感の思いにひたった。現在は大手ビールメーカーの協力会社で製品分析の仕事をしている。「会社の先輩も飛栄を話題にしてくれて、学生時代の誇りです。私もお酒を買います」
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東京北区観光協会は平成29年、地元の城北信用金庫を中心に「公民連携」を掲げて設立された。前出の中林さんとシェフさんも信金職員。注力する北区の魅力発掘の肝が飛鳥山である。
明治14年、渋沢がハワイのカラカウア王を飛鳥山の邸宅に招いた史実をもとに、ハワイフェスティバルを一昨年から毎年10月に開催。2日間で5万人を集客する新名物となった。
出身地の埼玉県深谷市の話題が先行するなか、北区では令和2年誕生の「しぶさわくん」キャラクターなど関連グッズが続々開発され、おみやげ館で扱う約600商品の半数が地元業者の製品だ。渋沢の健康長寿にあやかった似顔絵入りの乾燥納豆と渋沢エール(ビール)を買って、木陰で飲んだ。葉擦れの音に薫風が肌をなでる…。
王子駅ガード下の看板によると飛鳥山は「渋沢翁のテーマパーク」。史料館も立像もあるが、何より渋沢に五感で触れられた気がする、飛鳥山詣(まい)りである。 (重松明子)