「ルーキーらしさをぶちかましちゃった」「次は手が震えないように」「そういう顔になるよな」【SF Mix Voices 第4戦決勝】
7月21日、『第1回瑶子女王杯全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦富士大会』の決勝レースが静岡県の富士スピードウェイで行われ、坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)が今季初優勝を飾った。 レース後、全ドライバーが参加して行われる取材セッション“ミックスゾーン”から、ドライバーたちが決勝日について語った内容をお届けする。 ■阪口晴南(VERTEX PARTNERS CERUMO・INGING) 決勝リタイア 前日の予選ではQ2へと進出したもののアタックラップでトラブルがあり、12番手からのスタートとなっていた阪口。日曜朝のフリー走行では「そこまで悪くないかな」というマシンフィーリングだったといい、「もうひと工夫加えて」グリッドへとついた。 しかしスタート直後、オープニングラップのうちにマシンを止める光景が映像で流れたが、何があったのだろうか。 「原因は調査中ですが、スロットル関係のトラブルで、完全に閉じてしまってアクセルが吹けない感じになってしまいました。Aコーナー(コカ・コーラコーナー)の手前で、3ワイドで並んでいるときに真ん中でいきなりそうなってしまって……。アクセルが戻らないとかではなかったので、誰にも迷惑をかけることなく、コースから外れることができたのは不幸中の幸いでした」 連日のトラブルに阪口は、「今回、症状は違えど大きく見れば同じようなトラブルが3回くらい起きてしまったので、まともなレースウイークが過ごせなくて残念です」と表情を曇らす。阪口の38号車は、前戦SUGOでのクラッシュを受け、7月上旬に行われた富士公式テスト前にモノコック交換作業を行っているが、このことが今回の一連のトラブルにつながった可能性もゼロではなさそうだ。 「次(第5戦モビリティリゾートもてぎ)までは1カ月あるので、大変な作業にはなると思いますが、ひとつひとつ(問題箇所を)見ていただいて、次しっかりと走れるようにしたいと思います」 ■牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING) 決勝5位 6番グリッドスタートからひとつポジションを上げてフィニッシュした牧野は、「ストレスが溜まるレースだったというか、いろいろともっとできたことがあったなと思います」とレースを振り返る。 スタートでは3番手にポジションを上げた牧野だったが、「ファーストスティントでは思っていたよりもペースが上がらず」、ミニマムとなる10周でのピットインを狙っていたという。しかし、「うまく噛み合わず、結果的にそのタイミングを逃してしまって」11周目でのルーティン作業となった。 ミスコミュニケーションのようなものか、との問いに、「僕も『ピットウインドウ・オープン』というのを確認しなかったので、それもあるかなと思うんですけど……」と牧野。「それがすべてだったかなと思います。ちょっともったいなかったですね、絶対に3位になれたと思うので」と肩を落とした。 7月上旬の公式テストでは好調ぶりを見せていた牧野陣営だが、レースでは課題も露呈したようで、「僕らのクルマはエアロに頼らないと走れない雰囲気がすごくあって、前にクルマがいてフタをされると強みを活かせない」という。 「単走だとそれなりに走れるんですけどね。そういった意味では、野尻さんにアンダーカットされたのはかなり痛かったです」とミニマム周回数の10周でピットインした野尻智紀(TEAM MUGEN)に、アウトラップでパスされたことを牧野は悔やんでいた。 混走時のマシン特性だけでなく、優勝した坪井陣営と比較した際のレースペースにも、改善の余地があると牧野は言う。 「僕は絶対に坪井くんが来るって言っていたのですが、案の定、かなり速かったし、勝つためにはもうちょっとレースペースが足りないというのも痛感しましたね」 ■福住仁嶺(Kids com Team KCMG) 決勝4位 3年ぶりのポールポジションを獲得し、スタートもしっかりと決めてレース前半をリードした福住。 「久々のトップで新鮮な景色でしたけど、僕も思ったほど余裕がある感じではなくて。その中でも、(2番手の)大湯(都史樹)選手の方がちょっと辛そうな感じでした。坪井選手がすごい勢いで上がって来ているのも分かっていたので、あまり楽なレースにはならないだろうとは思っていました」 2番手の大湯が13周目にピットへ向かうと、福住はこれに合わせる形で翌周にルーティン作業を行ったが、左フロントタイヤの交換作業でタイムロスが生じ、表彰台圏外へとポジションを下げてしまった。 「僕の止まる位置も、ちょっとだけ完璧ではなかったと思うし……でもその中でも10何秒かロスしてしまい、(スーパー)GTも含めて“ピットイン恐怖症”になりそうなんですけど(苦笑)。心折れはしないですけど、苛立ちと、いろんな気持ちが頭の中にありました」 ちなみにこのピット作業の間、福住の目にはピットレポーターを務める英美里さんの姿が映ったという。 「英美里さんが『あぁ~!』みたいな表情をしているのが見え、そっちが気になってしまったのですが、『そういう顔になるよな。俺もなってるよ』みたいな感じでした(苦笑)」 ショッキングなこの出来事から正気を取り戻すのに「2周くらいかかった」という福住だったが、そこからのレース後半は気持ちを切らさず、コース上で失ったポジションを回復していった。 「チャンスがあるときには、1回で仕留めることができたおかげで、着実に順位を上げることができました。タイヤ交換のミスがなく、前の方でずっと走れていたら、優勝のチャンスもあったのかなと考えると非常に悔しいレースだったかなと思います」 39周目に牧野をパス、最終ラップには3位の野尻智紀(TEAM MUGEN)に迫ったものの、抜くには至らなかった。 「もうちょっと手前で牧野選手を抜けていれば良かったのですが……。最後の5周くらいで、前の2台がかなり厳しいゾーンに入ってきて、僕にチャンスが来たのですが、もうちょっと時間が必要だったみたいですね」 結果は4位と、望んだリザルトとはならなかったが、「僕たち2台そろってロングランのペースが良かったと思うし、2台ともにいろいろな発見があったので、大きく前進できたレースだったかなと思います」と、小林可夢偉含め、チームとして収穫の多いレースウイークだった、と福住は強調した。 「いいことはたくさんあったし、こういうレースはなかなかできるわけではないので、こういう強いレースができるように、努力しないといけないなと思います」と福住はこの好調を維持していくことの重要性を強調していた。 ■平良響(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL) 決勝9位 前戦SUGOで初参戦を果たしたものの、レースは序盤にして終了。実質的に決勝を戦うのは初となった平良は、随所で好バトルを展開、9位フィニッシュでポイントを獲得して富士戦を終えた。 「もちろん、嬉しいです」と平良はレース後のミックスゾーンでは喜びを隠そうとしなかった。 「スタートは失敗に終わり、ルーキーらしさをぶちかましちゃったんですけど(笑)、そのあとはセクター3までに何台か抜いてリカバリーすることができました」 14番手でオープニングラップを終えた平良は、その後も好ペースを維持、「トップよりも速いよ」という無線がチームから入る場面もあったという。 しかし、スタートに続いてルーキーならではの課題が浮上する。 「前の遅い選手を一発で仕留めきれないところとか、OTS(オーバーテイクシステム)を使う・使わないといった攻防戦がうまくいかなかったので、そこは次への課題かなと思います」 次戦以降の出場については何のアナウンスもない状態だが、平良本人は「出られるなら、この悔しいところを改善して出たいなと思います」と次なるチャンスに向けて闘志を燃やしていた。 ■山本尚貴(PONOS NAKAJIMA RACING) 決勝10位 9番手スタートの山本は、1周目には7番手へ浮上。ピットインを後半に入った24周目まで引っ張る作戦を採った。 「全体的にちょっとスピードが足りなくて、うまく乗れなかったです」 とくにピットアウト後にペースを失ったように見えたが、レース直後で分析が進んでいないこともあり、その原因について山本は言葉少なだった。 フォーミュラ・レーシング・ドライバー・アソシエーション(FRDA)会長を務める山本は、レース全体を俯瞰し、今回『第1回瑶子女王杯』として行われた大会の意義にも触れた。 「瑶子女王殿下が来られて、本当に名誉ある大会になり、お客さんもたくさん来場してくれました。こうして箔がつくことが盛り上がりに一役買うことになるでしょうし、ここからスーパーフォーミュラの面白さが伝わり、来場される方が増えて、モータースポーツが日本の国民にとって、ちゃんとスポーツとして認知されるような、そんな大会になればいいなと思います」 なお、金曜に瑶子女王殿下とドライバー全員が対面した際には、山本がドライバー代表として挨拶をしたが、その手は震えていたという。 「まさか、あんなに緊張するとは思いませんでした」と山本は振り返る。 「皇室の方がこうしてサーキットに来られて、僕らとこういう風な形でコミュニケーションを取っていただけるのは本当に名誉なことですし、光栄なことだなと思いました。瑶子女王殿下には、来年とは言わず、またすぐスーパーフォーミュラのレース会場に見に来ていただきたいと思いますし、また挨拶のチャンスをいただけたら嬉しいです。次は手が震えないように頑張りたいと思います」 [オートスポーツweb 2024年07月21日]