「この歌を出すなら今しかないと思った」と話す山川豊（酒井真大撮影）

歌手の山川豊（65）が約1年ぶりの新曲「兄貴」を日本クラウンから出した。ステージ4の肺がんと診断され、今年1月に「休業」を発表した。治療に専念し、4月から仕事を再開。月に一度の検査を受けながらマイクを握っている。歌うこと、生きることへの覚悟と決意を語る。 【写真】兄で歌手の鳥羽一郎 ■告知にショック 「え？　噓でしょ？」 昨年10月、かかりつけの病院の血液検査で、がんの疑いが見つかった。 「びっくりしましたよ。自覚はなかったから」 4年前に大手事務所から独立し、昨年、ようやく個人事務所を設立。心機一転の新曲「人生苦労坂」の発売にこぎつけた。その矢先の出来事で、「余計にショックでした」と振り返る。 12月にがんの専門病院で精密な検査を行い、ステージ4の肺がんと告げられた。脳と脊髄にも転移していた。 「あ、そうなんですか」 医師の告知は淡々と聞いたが、やがて「もう駄目だと死のことばかり考えた」と明かす。 兄で歌手の鳥羽一郎（72）には、すぐに電話で知らせた。葬式や墓のことまで相談したが、「そんなことより、とにかく治せ。どんなことがあっても治せ」と励まされた。 周囲の人の応援の言葉は胸に深くしみたが、気持ちの浮き沈みがしばらくは続いた。 クリスマスディナーショーは予定通り舞台に立ったが、検査で肺の細胞を採取した影響が出た。歌うと息苦しい。「もう、歌えないのか」と悩んだ。 今年1月、抗がん剤の副作用を検査するため2週間入院し、幸い、がんを攻撃する薬が体に合っていることが分かった。下痢、口内炎、発疹などの副作用に苦しんでいるが、痩せたり毛が抜けたりということはない。 2月に退院。毎日1錠抗がん剤を服用しながら、4月に仕事に戻った。 「また仕事ができるとは思いもしなかった」としみじみ語る。 ■出すなら今しか 今月2日には新曲「兄貴」を出した。鳥羽のことを歌っている。 「芸能界では兄弟もライバル。いろいろなことがあったけど、年齢を重ね、兄貴のことを歌いたいと思いたち、8年前、荒木とよひささんに兄貴について6時間もしゃべって、作詞してもらった」 コロナ禍や独立などで録音の時機を逸した。だが、鳥羽は昨年のクラウンとの契約の仲介、さらに入院中は代わりにステージに立ってくれたこともあった。感謝してもしきれない兄なのだ。